第5話 俺の好きな女子マネージャーが、俺にだけタオルを渡してくる。

 日比野翔ひびの/しょうには好きな人がいる。

 しかし、その彼女は他の部活メンバーと仲が良いのだ。


 別に嫉妬しているわけじゃない。

 けれども、この頃、真面目に部活を頑張っているのだ。

 少しは意識してほしいと思ってしまう。


 一時間程度のテニスの朝練が終わると、翔はテニスコートのフェンスに背を向け、周りを見渡しながら、その場にしゃがみ込んだ。


 翔は左腕で汗を拭った。


「ね、大丈夫?」


 急に天使のような声が聞こえる。

 疲れていた感情が薄れ、翔はパッと視線をそちらへと向かわせた。


「これ、使って」


 好きな彼女――葉月夏海はづき/なつみから水色のタオルを渡された。

 夏海はテニス部のマネージャーなのである。


 彼女は翔の隣のフェンスに背をつけ、話し始めたのだ。


「明日さ。土曜日の事なんだけど、時間ある?」


 土曜日か……なんで聞いてきたんだろ。

 でも、休日って事は……まさか?


「どうかな?」


 彼女は翔と同じ頭の高さになるように、その場にしゃがんで顔を向けてきた。


 夏海との距離が近く、変なテンションになる。


「い、いいよ……あ、空いてるから」

「じゃ、約束してもいい?」

「う、うん……」


 翔は頷いた。

 それから目を点にし、頬を真っ赤にしたままボーッとしてしまう。


「おい、さぼってる奴、朝のHRが始まるから早くしろよ!」


 コーチが何度も大きな声で、翔を含めた部活メンバーらに指示を出している。


 翔はコーチの怒号で意識を取り戻し、テニスコートの後片付けを急いで始めるのだった。

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