サンダルでダッシュ!
濁りきって何も見えない海、生ぬるい風、誰かの犠牲で成り立っている夜景、さわやかさが一ミリもない。
天気予報によれば、あと数十分で雨が降り始めるらしい。
雲の流れが速い気がする。さっさと仕事を終わらせないとね。
「よーるのうーみはーひろいなおおきーなあーっと!」
俺は段ボールごと大量の空き缶を海に放り投げる。
空き缶がバラバラに飛んでいき、波間を漂う。
今日の仕事は大量の空き缶を海に放流することだ。
誰にも気づかれないように、あらかじめ指定された場所でゴミをばらまく。
昨日は軍手、一昨日は赤い封筒、その前はキュウリを夜の海に投げ入れた。
なんだかよく分からないものを投げ込むのが俺の仕事だ。
これでも立派な正社員、有給休暇が勝手に消えたりしない程度のホワイト企業に勤めている。仕事の内容は意味分からないけど、やれと言われた以上はやるしかない。
この空き缶も何か意味があるのだろう。この世において無意味なことはない。
うちの社長もそう言ってた、何かしら哲学があるんだって。
空き缶をすべてばらまいた後、次の荷物が俺の足元に届いた。
おや、今日は空き缶だけで終わるはずだが、いつのまに追加されたのだろうか。
今度は小さめのアクリルの板だ。暗くてよく分からないが、様々な形をしている。
アクリルは空き缶のように海に浮かぶのだろうか。
まあ、仕事ならやるしかないね。
俺は段ボールごとアクリルの板を投げ捨てた。
アクリル板が夜の闇に溶け、音を立てて海に沈んでいった。
これも海を漂っているうちに砕け散って、ゴミになるのだろうか。
気の遠くなる話だ。その頃には人類は滅んでいるのだろうか。
未だ明るい対岸を眺めていると、あちこちで音が聞こえてきた。
いつのまにか人が集まっており、海にゴミを投げ捨てている。
段ボールの中身をぶちまけたり、ゴミ袋をそのまま投げ入れたり、好きなように海に物を投げ入れている。
顔はよく見えないが、同じ会社の社員じゃないことだけは確かだ。
ずらっと並んだゴミを見る限り、俺の倍以上はゴミを持ち込んでいるように思えた。
しばらく見ていると、足元まで海が迫ってきていることに気づいた。
波が寄せては引いていく。物を投げ入れすぎて、海面が上昇したか。
物を投げ入れていた人たちは、今度は海の上を歩き始めた。
当たり前のように、対岸に向かって海の上を走っている。
自分たちの投げ入れたゴミが足場にでもなっているのだろうか。
そうだとしたら、俺も空き缶やアクリル板の上を走れるかもしれない。
俺は助走をつけて、海に向かって走り出した。
リズムよく対岸へ走り出す。彼らに続いて、ゴミの上を走るんだ。
水面に足を踏み入れた瞬間、俺の足が引っ張られた。
空き缶やアクリル板は掴んだところで何の役にも立ちやしない。
ゴミと一緒に底へ底へと沈んでいった。
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