第2話一目惚れってあるんだね

 大学受験は失敗した。恋愛に溺れていたからではなく、単にその大学のレベルが高かったのだ。母は自らの経験から自立して生きていけるように手に職をつけろと言い、私は管理栄養士の資格を取ることを目標にした。そのためにその資格が取れる大学の中で最も偏差値が高い国公立の大学を受けたのだ。一次試験の結果は自分の中では過去最高に良かったが、E判定だった。それでも悔いが残らないように二次試験を受けたが、試験問題を見て頭が真っ白になった。わからない。なんとか必死に埋めたが、手応えはなかった。自宅で合格発表の画面に自分の受験番号がないことを確認し、母とおばあちゃんが盛り上がって応援してくれていたのに、その期待に応えられなかったことが申し訳なくて涙が止まらなかった。家庭の事情で学費の安い国公立を目指していたが、私の夢を応援してくれた母は第三志望の私立大学に進学することを許してくれた。


 そして私は京都の管理栄養士を目指す女子大学へ来た。初めての一人暮らしで自分の好きなように過ごせるのがとても楽しみだった。また、私は大学生になったら恋愛をして将来の旦那さんを探しておこうと思ったのだ。今まで彼氏がいなかったし、親の離婚がすごく辛かった経験を自分がしているからそうならないように頑張ろう!という目標を立てた。女子大学では出会いがサークル、バイトなどであることを事前に調べていたから、私はインカレのカメラサークルに入った。カメラは持っていなかったが。バイトは個別塾の講師をすることにした。


 大学ではみんなキラキラした姿だった。私が第一志望に落ちたという劣等感を持っているから余計にそう見えただけなのかもしれないが。友達も出来た。私がよく喋る方だから、夕子はその話を受け止めて聞いてくれた。


「夕子ちゃんは彼氏いるの?」

「ううん。夏までに彼氏欲しいなー。」

「それなー。」


 結局夏までにお互い彼氏は出来なかった。


 私は中古で2万のミラーレスカメラを買い、12月のカメラサークルの活動に参加した。それはクリスマスの1週間前で嵐山のライトアップをみんなで撮りに行くというものだった。3つの班に分かれて自己紹介した後、わいわい話しながら歩いて写真を撮る流れだ。


 班分けがされた時、私はびびびと稲妻が走ったような衝撃を受けた。

 風太の顔にそっくりなイケメンがいた。ぱっちりと大きな瞳、キリッとした眉毛、濃い顔。ドストライクすぎて目が離せなかった。なんだこのイケメンは!?


 幸い彼は一人で来たようなので、話しかけて一緒に歩いて写真を撮った。


「初めまして。1回生の鈴木舞子です。えっとお名前なんでしたっけ?」

「仲田奏太です。」

「奏太君か〜。よろしくね。学部はどこなの?」

「経済学部です。どこなの?」

「私は管理栄養士目指していて、そういう学部なの。」

「へぇ〜。じゃあ料理とか得意なん?」

「全然まだまだだよ〜。」


 そんな他愛もない話も盛り上がって、私は打ち解けた。彼はクール系で控えめな感じだったが、私の話を楽しそうに聞いてくれるのが嬉しかった。そして背の高い私が見上げてしまうくらい彼は背が高かったことに驚いた。まず男子に会う機会が少ないこと、そして背の高い男子に会わないため、自分より背が高いことに悔しさを覚えたのかもしれない。


「背高いよね?何センチあるの?」

「185cmです。この質問毎回されるんだけど(笑)」

「そうだよね(笑)背高いとよくその質問されるよね。私も背高い方だからわかるな〜。」

「え。何センチ?」

「165cmあるよ。」

「俺からしたらチビやで。」

「え!?チビ!??」


 衝撃だった。高身長で風太にもでかいと言われていたことが引っかかっていたので、そんなことを言われるなんて思っていなかった。そして気にしていたことを一瞬でかき消されたのが嬉しかった。なにか許された気がしてしまった。


 夜はサークル全体のご飯会に行くことになった。彼と同じテーブル席になり、ドキドキが止まらなかった。23時過ぎ、帰りの方面が一緒で彼と同じ地下鉄に乗ることになった。


「今日楽しかったね〜。」

「ね。嵐山も綺麗だったし、ご飯も美味しかったね。」

「うん。奏太君はサークル他にも何かやっているの?」

「小学校からサッカーやってるよ。」

「え゛!!!!!」

 かっこいいいいーーーー!と心の中で叫んだ。

「え?なに?」

 風太がサッカー部だったせいで、サッカー部男子が憧れで好きフィルターが私の中でかかってしまっていたため、奏太君が一気にかっこよく見えてしまったのだ。

「いや、私サッカー部好きなんよ。」

「そうなん?マネとかやってた?」

「マネ?」

「ああマネージャー。」

「マネージャーね!すごく憧れていたの!でも仮入部でちょっと先輩が怖かったからやんなかった。」

「そっか〜。女子同士って怖いもんね。」

「うん。怖いんだよ〜。ていうか奏太君絶対モテていたじゃん。」

「いやそんなでもないよ(笑)」

「いやいや、チョコ何個もらった?」

「覚えてないよ。」


 会話のテンポもよく、あっという間に時間が過ぎた。地下鉄を待っている間彼の肩が触れた。どうしよう。男性の免疫がないせいで心臓はバクバクして平常でいられない。でも触れていて嫌な気はしないから、そのまま動かなかった。


 すると不意に、

「舞子ちゃんモテるでしょ?」

「え?ないない。モテたことないよ。」

「ほんと?」

「うん。彼氏もいたことないし、告白して振られたことはあるけど。」

 突然彼からそんなことを言われたせいで、焦って言わなくていいことまで言ってしまった。

「ふーん。そうなんだー。」

「うん。そうだよ。あー彼氏欲しいな〜。」


 舞子ちゃんならすぐできるよ〜。とか言ってくれるかなと思った。

 地下鉄が来たから乗り込もうとしたその瞬間、


「付き合ってもいいよ。」


「え?」

 脳がフリーズした。この人なんて言った?付き合う????え?うん?

 空いている席に隣同士で座りながら

「いやいやいや?」

 冗談でしょ?そう思ってツッコミを入れようとしたら

「ううん。本気。付き合って。」

「え???!?」


急展開すぎて頭が追いつかなかった。え?私告白された!???人生初めての出来事すぎて意味がわからなかった。


「なんで??どこを好きになったの?」

「顔。あと、話していて雰囲気合うし好きだなって思ったから。」


 今日初めて会った人だよね?でもすごく顔がタイプだし、話していて楽しかったし、面白かったよな〜。何よりこんな私を好きになってくれたことが嬉しかった。自己肯定感の低い私が「好き」の言葉で自分の居場所を見つけられたような気がした。私に彼は一目惚れしてくれたってことなのか。私も彼に一目惚れしたし、同じってことなのか。多分普通の人だったら、ここでお友達から始めましょうってやるんだろうなって後から気づいた。この時の私はこの人は怪しい人じゃないか?を疑う気持ちより嬉しいが勝ってしまった。だから


「はい。お願いします。」

 震えた声で頷いた。

「え?ほんとに!!?嬉しい。」

「うん。私も。」


 奏太君は右手を差し出した。私は左手を彼の右手に乗せて初めて恋人繋ぎをした。

 本当に彼氏が出来たのか!!?隣にいるこの人は私の彼氏!!?体がかたまって、動揺が隠せなかった。


「もっと話したい。家まで来て話そ。」

「え??」


 少し違和感を覚えた。家?初対面で?恋愛経験のない私でもわかった。これは付いて行ってはいけないやつだと。


「なんも変なことせんから。まだ話し足りないからもっと話したいな。」

「いや、今日疲れたし早く寝たいし…」


 繋がれた手の力が強くなり、振り解けなかった。どうしよう。このままだと彼の家に行くことになる。


「じゃあ明日!明日空いてる?」

「ああ、うん。空いてるよ。」

「じゃあ明日、お家デートしよ!」

「わかった。」


 咄嗟にその場を凌ぐために私はお家へ行くのを明日に引き延ばした。

 私は駅のホームに降りて、彼に向かって手を振る。彼もこちらを見て、手を振ってくれた。地下鉄は過ぎ去っていき、私もおぼつかない足取りで階段を上がっていく。地上に出たとき、腰が抜けて地面にへたり込んでしまった。

 私に彼氏が出来た!??????

 これは夢ではないのか。現実味がなく、まだ信じられなかった。


 家に着いてもまだ夢見心地だった。一緒に写真を撮りに歩いている途中でラインを交換したから、奏太君からラインが届いた。


「今日はありがとう!これからもよろしくな!」


 夢じゃなかった。え、ほんとに私たち付き合ったんだ。

 あと、明日お家デートってことになっているのだいぶまずいかも。


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