期待しないと楽になれるのかな
はちみつれもん
第1話 あなたしかいないと思った
「俺はイケメンだからさ。」
おどけたようにこちらを見てよく言う。それが彼の口癖だった。確かに癪に障る奴だが実際彼の言う通り、顔立ちは整っていた。ぱっちりと大きな目、筋の通った鼻筋、凛々しい濃い顔で、アイドルかモデルにでもなれるのではないかと私は思っていた。小学6年生のとき転校してきた私(舞子)は彼(風太)の隣の席になり、風太はよく話しかけてくれた。私は親が離婚して友達もいなくて不安だったから、それがとても嬉しかった。ちょっかいをかけつつ、よく笑わせてくれた。私に興味を持ってくれていること、私が楽しく話せる唯一の男子だった。そしていつしか彼のことを好きになった。ナルシストで自己主張が強いが、私はそこがすごく羨ましかった。自分には持っていないものだったから。人に嫌われてもいいから自分の意見を貫くところ、周りの反応を見つつ笑わせて気を遣っているところ、自信満々で余裕があるところとかもう全部全部気がついたら好きになってしまった。でも告白して付き合うとか怖くて出来なかった。彼に好きだと伝えて振られてしまったら、もう二度と今までみたいに話すことはできないし、周りに言いふらして私が惨めになると思った。付き合えるなんて思っていない。あなたが私を好きになってくれたらいいのに。そう思っていても何もできずに小学校を卒業した。
中学生になって風太と同じクラスになった。そして2回目の席替えでなんと彼の隣の席になったのだ。運命だと思った。心臓が飛び跳ねるくらい嬉しかった。ただ彼の反応はそっけなかった。私が隣だったから嫌だったのかな?少し心配になったが、また話しかけてくれた。小学生の時よりあまりはしゃがなくなっていたのが寂しかったし、距離ができたと感じた。男子は中学生の時期は恥ずかしくて女子と話せないものだよねと思い込んでその距離を縮めることをしなかった。
そこからは同じクラスになることもなく、距離は広がるばかりだった。話す機会もなく、私は移動教室ですれ違う彼をただただ見つめることしか出来なかった。
卒業式の日、彼に告白した。高校は別々になるから、もう会えないし、ここで後悔をしたくないと思った。ただ今まで全然話していなかったから、彼はびっくりしていた。校舎裏、彼を呼び出して勇気を出した。
「好きです。付き合って下さい。」
心臓がバクバクした。もう顔を見れない。下を向いて右手を突き出した。
「ごめん。」
消え入りそうな声で彼は言った。
「そっか...。」
「でもありがとう。」
お礼を言われたって、何にもならないのに。涙が止まらなかった。でもこれで悔いはない。
それが中学の卒業式の思い出。
振られた。それが事実なのに、私はどうしても彼が忘れられなかった。もしかしたら高校生になって再会して「やっぱり好きだったんだ。」って言われるんじゃないか、そんなことを妄想しながら毎晩夢の中に落ちていった。彼のことを考えている時は心がドキドキすると同時に落ち着いていた。彼が私にとっての運命の人なんだ。私はあなたといると楽しいし、もっと一緒にいたいよ。あなたしかいないと思った。これは恋なのか執着なのかわからなくなった。振り向いてくれるはずのない彼をずっと追っていた。それが心の安定剤だった。
高校2年生のとき、友達から風太に彼女が出来たことを聞いた。え。なんで、そんな。私のことは?なんて頭の中でぐるぐると回っていた。
彼女は同じ高校の同じクラスで大人しい人らしい。そして彼は今までみたいに尖っているわけではなく、大人しくなったらしい。その彼女はあなたを顔で選んだわけじゃなくて内面を見ていたんだろう。そしてあなたも変わったんだね。心にポッカリと大きな穴が出来た。それでも私はめげずに彼が「実は私を好きだったよ。」と言ってくれる妄想をして大学受験勉強に励んだ。
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