活気のないピエール王国

第29話 到着

 「ピエール王国だ」ジルが笑みを浮かべて言った。

「キューやったね!あなたのふるさとでしょう?」ちいはキューと手を取り合った。

「う、うん。記憶があまりなくて・・」

「ブタの魔法をとかなくてはな」コングが言った。

「变化の魔法はかけた者しかとけない。かけた者を探さなきゃ」魔女が言った。

「ぼ、僕はつぼを覗いてかかったんだ」

「それじゃあ、誰がかけたか分からないねぇ」

「とりあえず、王国に入って休もうよ。クタクタだ」ジルが言った。

 皆は王国の入り口に向かった。

「特に誰でも入れるみたいだな」コングが言った。

「城下町になっているね。町の奥に城がある」ジルが言った。

「宿屋を探そう。何か食事をしよう」コングが言った。

「ぼ、僕は我慢できない!」フルームが興奮して石を食べだした。

「待て、恥ずかしい」バーバラが言った。

フルームはムシャムシャ食べている。町の住民は笑い、白い目で見ていた。

「やめな。フルーム!」

「う、う~ん。何か思ったより、美味しくない」フルームが残念そうに言った。

「え!そうなの。ちょっと一口」バーバラがガリっと石を食べた。

「本当だ。味が落ちている。昔はもっと美味しかったのに」

「石の味って変わるのかい?」キューが聞いた。

「ええ。人の気で変わるの。ここの住民の波長が低いのかしら」

「向こうに宿屋が見える。行こう」ジルが言った。

 ジルは宿屋の人に話しかけた。

「空いている部屋はあるか?泊まりたいのだが」

店主は、「ああ。空いているよ」小さい声で答えた。

「どの部屋だい?」

「2階だよ。上がれば分かるさ」店主はそう言って、奥に引っ込んでしまった。

「二階に行ってみよう」ジルが言った。

「不親切な店主ね」バーバラが言った。

「あ、ちいがいない」ゲージの中に小人のちいがいなくなっていた。

「どこかへ落としたのでは!」キューが不安気に言った。

「扉は閉まっている。落としてはいないだろう」ジルが言った。

「向こうの世界へ行ったか」魔女が言った。


 ちいは目を覚ました。自分の部屋だった。窓の外は快晴で、ひこうき雲が見えた。

「あ、小人じゃない」ちいは自分の体が普通の大きさになっているのを確認した。

日付が表示されているデジタル時計を見た。どうやら、あれだけ冒険したのに、こっちの世界では一晩しか立っていないようだ。

「何日も時間が立っているんじゃないんだ・・」

おそるおそる、下の階へ降りた。

「ちい!」ママがちいを見つけるやいなや、いきり立った。

「ご、ごめんなさい」

「何をあやまっているの?顔を洗いなさいと言おうとしただけよ」

「あ、そうか。顔を洗おうっと」ちいは洗面所へ行って顔を洗った。リビングに戻ろうとした時、パパが書斎しょさいから声をかけた。

 「ちい。ちょっと来なさい」

「パパ。お仕事はいいの?」

「今日は休みさ。それはいいのだけど、ちいは何かパパに隠している事はないかい?」

「かくしていること・・え~と」

「もしかして、違う世界へ行ってないかい?}

「え!パパ、知っているの?信じてくれるの?」

「ミンクーがいる世界じゃないかい?」

「そう!そうなのよ。パパも行ったの?」

うん。2年ぐらい前に行ったことがある。minku coffeeで働いていたよ。だから、パパはコーヒーの仕事ができるんだ。ちいが目を覚ますたびに、どこかで何か体験しているかのような気がしたんだ」

「キュー、コング、ジル。西の魔女。知っている?」

「いや、知らない。この家の時空とミンクーの世界が通じているのかなぁ」

「パパはもう行かないの?ミンクーの世界」

「もう行けなくなった。なぜだか」

ママがリビングから呼んでいる。

「朝ごはんを食べようか」

「ママは信じてくれるかな」

「パパからもママに説明したことがあったのだけど、ひどく混乱してしまってね。ママには言わないほうがいい」

「そう。ねえパパ。お店の名前決まった?」

「まだ検討けんとう中だが」

「‘minku coffee”にしない?」

「いいね。”minku coffee”それにしょう」

二人はリビングへ移動した。


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