第六話 覚醒
レールを登っていくジェットコースターのように斜め上を仰ぐ姿勢になりながら、高度を上昇していく。耳に違和感を感じあくびや耳抜きをしているうちに、目標の高度に到達した。
水平方向の飛行に移ると窓ガラスの向こうには、広大な青白い空と、仲間の戦闘機が見える。変わり映えのない空と海が続き、進んでいない感覚になるが、雲や島を通過するたびに薄らぐ。空母では厚手の飛行服で暑苦しかったが今は肌寒く、ぬるかった水筒の水も冷んやりしている。じんわりと出てくる鼻水を手袋でぬぐっているうちに、いつの間にか鼻の周りには革製品特有の匂いが付着した。プロペラ音とエンジン音に耳が慣れ、まるで静寂に包まれたかのようになってくる。
数時間前に目にした日本側の被害、爆発炎上する空母、墜落する戦闘機、負傷した兵隊は、この作戦の緊張感を高めるための演出だったんじゃないか。チートにより戦闘機の操縦ができるということは、俺は最強の設定になってるはずだ。だとしたら、俺の大活躍により日本航空隊全機が無傷で、この作戦を成功させるはずだ。今体験してるのは、どこまでも俺にとって都合の良い仮想体験なのだから。
少しすると、先を飛ぶ味方の戦闘機が機体と翼を小さく振り合図を出す。到着したようだ。遠くを航行する米空母と、その周りを囲む軍艦が見える。
余りの出来レースっぷりにニンマリと口元を緩めた時、前方から編隊を組んだ多数の米戦闘機が接近してくる。側面に星のマークがある水色の機体が束になり、まるで大きな生き物みたいだ。
宣戦布告もせずに一気に空中戦に突入した。敵も味方も散れじれになる。米戦闘機や米軍艦から、数え切れないほど弾丸や砲弾が光の玉のように飛んでくる。反射的に
何とか踏みとどまって自分に言い聞かせる。俺は最強設定なのだ。敵を
日本と米国の戦闘機が敵味方入り乱れての壮絶な戦いを繰り広げている。炎と黒煙を吹上げ墜落していく戦闘機は日本の方が多い。軍艦からの対空砲火に狙われ、戦闘機の数も少ない日本は明らかに不利だ。日本は一機たりとも米空母に迫る余裕はない。
俺は必死に照準器に米戦闘機を重ねるが命中しない。砲弾や弾丸の嵐を掻い潜ることばかりに意識が向き攻撃に集中できない。露骨に向けられた殺意に凍りつきそうだ。くそ。こんなはずじゃなかった。
いきなり、誠二の乗る戦闘機がすぐ横に近づいてきた。何やら手信号で意思疎通を図ろうとしてくる。俺が理解する間もなく、誠二は米航空機群に真正面から突っ込んでいくと、直前で大きく旋回し攻撃を交わし、複数の米戦闘機を誘い出すように追尾させた。
なんと米空母を射程圏内に捉えたスペースが生み出されている。そのスペースに味方の戦闘機が突っ込んでいく。最初の一機は急降下中に複数の敵船からの砲弾を浴び火だるまになり墜落していく。次の機は黒煙を噴き上げながら米軍艦に体当たりし爆発炎上した。敵船の対空砲火は続くが、一隻の米軍艦の対空砲火が止まったことで、目の前には米空母への続く一本の細い道が開けた。周りに味方はおらず、攻撃を仕掛けられるの俺しかいない。
絶好調のチャンス。しかし踏み出せない。兄が、いや兄に似た誠二が気になる。あれだけの米戦闘機を長い時間引きつけるのは無理だ。早く助けに回らねば撃墜されてしまうかもしれない。しかし、誠二が自らを
誠二を助けよう。米空母への道はもう一度こじ開けたらいい。そう決め、誠二がいる左に操縦桿を傾けたのと同時に、敵戦闘機から追われる誠二がこちらに向かってくる。被弾したようだ。誠二の左翼からは燃料が漏れ出している。
早く誠二の元へ。はやる気持ちで近づくと誠二と顔を見合わせる形になる。誠二は今にも泣き出しそうな顔で手信号を送ってくる。空母へ行け、と言う意味だ。
米空母に視線を向けるが誠二や味方がこじ開けた細い道筋は消えかけようとしている。右後ろから弾丸が連射されてくる。振り向くと、二人乗りの米大型戦闘機の後部座席に設置された機関銃が高速連射してくる。今度は誠二は泣きながら手信号を送ってくる。誠二はまたしても道を切り開くために米大型戦闘機に向かっていった。
俺は覚悟を決め操縦桿を押し倒す。米空母の甲板までの道がクリアに見える。迷いが振り切れた時、今までにはなかった集中力を感じる。米戦闘機、米軍艦の位置、攻撃が立体的に把握できる。最高速度で急降下し、攻撃の隙間をすり抜け、確実に外さない距離まで米空母に詰め寄る。甲板の中央にある、戦闘機の出し入れ用の大型エレベーター目掛けて、左手でレバーを引き爆弾を落とす。狙い通り、たちまち勢いよく空母が爆発し激しく炎が吹き出す。思わずガッツポーズ。
操縦桿を引き上昇をする。誠二の戦闘機が炎をあげている。米戦闘機を撃退しながら、急いで近づくとコクピットの風防ガラスに
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