魔法講義;魔術と魔法の違いについて

「よいか、カスパル君。魔法を使う前提として、魔術は極めて重要だ。」


 イェーガー家の事件から2カ月が過ぎた。

 俺は今、フォイエルバッハ先生から炎の魔術の実践授業を受けている。

 先生の邸宅は広い。魔法の練習場も確保できるとはさすがはお貴族様だ。

 まあ家柄と言うよりかは稼ぎがいいのだろう。法学識は金になるし。

 それはさておき先生の見立てによると、俺も火の属性らしい。


「魔術の4大元素がある。そう地水火風の4つだな。まあこれは理論上の話だ。」


 先生の手のひらの上に、赫熱したこぶし大の球体が1つ浮いている。


「よく見てごらんなさい。これがぼくの【ファイアーボール】だ。」


 まじまじと見てみる。よく見ると気泡がポコポコと泡立ち、液体であることが分かる。


「どうかな。これでは炎と言うよりマグマだろう?しかし、みんなそんなものだ。ぼくの魔力は火と地の属性が融合していて、それらは互いに分かちがたくある。だから、まともな炎だけの【ファイアーボール】を作れた試しがないのだよ。」


「それはそんなに重要なものなのですか?」


「ああ、重要だ。入り混じっていない人は、火だけ、地だけ、と使い分けが可能だ。純粋な【ファイアーボール】が作れるし、土から鉄の槍を生み出すことができる。そして僕のように溶岩を扱う魔術もできなくはない。」


「なるほど。先生はそれで昔から苦労されたんですか?」


 気になって聞いてみた。


「はっはっは。まあ、なんでできないんだろうとは思ったが、実際にはかなり有利に働く。まず、2属性同時使用はなかなか体に負担が来るらしいのだ。だから、ぼくも火地両属性を併有している魔術師にお願いしてみたり、あるいは教えてくれと言われたことはあるが、ぼくの出力の4分の1ほどの出力しか出なかった。」


「なるほど。先生のような体質の方は、融通が利かない代わりにユニークなんですね。」


「うん、その通りだ。それゆえぼくのような体質の者を二元素融合者と呼ばれ重宝されてきた。なにせ実戦でお目にかかることがほとんどない特異な魔術師だからね。」


「そうでしたか。スポーツにおいて左効きの選手が強いみたいなことなんですか?」


「うんうん。それに似ておる。希少性は価値を生むの典型だな。」


「二元素融合ということは、それは3、4と増えたりするんですか?」


「ほほう。察しがよろしい。二元素融合もかなり珍しいが、三元素も確認されておる。今の皇帝陛下の血筋じゃな。歴史のある名家に多い。なにせこれらの特質は父から子へ受け継がれていくことが多いし、対応策を講じにくい、あるいは初見の属性であることが多く、戦場で重宝されるからの。だが、歴史上四元素は確認されていない。もしかすると人体が耐えられないのかもしれんの。」


 興味深い。


「さて、座学はこのくらいにして、君もファイアーボールを作ってみなさい。火の魔力があることは間違いないように見える。作れるはずだ。」

「こうですか。」


 手のひらの上に作ってみた。出来たのは俺のこぶし大くらいの大きさ。金属光沢のある黒い球体だ。


「うんうん。最初から上手くいくわけではない。倦まず弛まずやって、ってえ?できてる。」


 なんかごめんなさい。


「いや、これは将来有望だ。では次にそれを投射してみよう。魔術師が戦場に出るときはたいてい後ろから火力を投射することが多い。特に火の魔術の場合はな。」


 そういうと先生は溶岩を成形して人型の的を作った。


「え?これ火の属性ありますか?地属性っぽいですが。」


「それを確かめるのだ。さあ、あの的に向かって放ってごらんなさい。腕は、最初は動かしても」


 途中だがなんとなく分かったのでそのままぶつけてみる。


「よいよい。初めてでうまくいくことなど無」


 ドオオオオンという爆音が鳴り響いた。人型は粉々に砕け散った。

 おれの生み出した「ファイアーボール」はよろよろと進んでいき、たしかに的に当たった。刹那、この爆発を起こした。


「……カスパル君。君、どこかでやってた?」


「いえ、記憶には無いです。」


「そうだよね。君、記憶喪失だもんね。」


「はい。」


「いや、肝を冷やした。もしやと思って【平和霊】を出しておいてよかったよ。」


 そう言うと先生は冷や汗を拭いた。


「さて、君の魔術属性はよくわかった。ぼくと同じ火と地属性だ。ぼくは火属性が強めだが、君は地属性が強めのようだな。」


「え?じゃあ先生と同じ二元素融合ということですか?」


「いや、そう結論付けるのはまだ早いだろう。火属性しか無い者でも、最初から上手く作れないものだし、二属性持っていてもたまたま混ざって出力されただけで、融合していない可能性も排除できない。併有と融合は似て非なるものだ。」


「分かりました。早く打てるように頑張ります。」


「ああ、ただ、それよりも前に魔法を教える必要があるとは思わなんだ。」


「え?魔法。」


 先生の顔は少し面倒そうな顔をしていた。


「君が2元素融合者だった場合、ちと厄介な問題がある。それは爆発魔術と呼ばれる魔術に近いだろう。その場合、いくら訓練をしても爆発が着いて回ることになるし、そのたびに金属片が辺りを飛び回ることになる。」


「ああ、そっか。先生の【ファイアーボール】はまだ穏健でしたけど、僕のは爆発するからですね。」


「ああ、だから一人でも練習できるようにするために、先に魔法を教えねばならない。」


「難しいんですか?」


「ああ、難しい。魔術の練習は運河で水泳をするようなものだが、魔法は嵐の海を泳ぐようなものだ。」


 先が思いやられそうだ。

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