ーepisode zero_six

 『三千八百年 八月七日 藍沢』

 

 

 「はーい」

 小さくも大きくもない病院の一室。

 看護師に案内され部屋をノックすると凪海花が扉を開き顔を覗かせ、どうぞと俺を中へ招き入れた。

 「体調大丈夫なのか?」

 看護師が用意してくれた椅子に座り、ベッドに腰かける凪海花に問う。

 夏休みが始まって三日目。

 凪海花が入院したということがが彼女の担任である俺に伝えられた。

 病状までは教えてくれなかったが、入院となれば相当重いのだろうかと予想していた。

 「全然大丈夫!もう元気すぎて病院駆け回りたいくらいだよね。」

 だが案外今は元気らしく、凪海花はクスッと微笑む。

 「元気そうでなにより。進路、どうしたいとかあるのか?」

 中学三年生。

 義務教育が終わった後の進路はこの先の人生で少なからずとも重要なこと。

 「行きたい高校はあるよ。」

 そう言って凪海花はスマホを取り出し何かを調べその画面を俺に渡す。

 偏差値が低くも高くもない、中間より少し上くらいの公立の普通科高校。

 「制服可愛いし?いいかなって」

 「いいんじゃないか?成績的にも多分推薦で入れるし、凪海花がそれでいいならいいと思う」

 スマホを凪海花に返しながら言う。

 偏差値も多分丁度いいくらいだろうし、まあ、いいと思う。

 「本当?じゃあもうここ一本だね。」

 スマホを受け取り仕舞ってやったねと凪海花が言う。

 「あれ、じゃあもう面談話すことない?え?帰っちゃうの?先生。」

 「うんまあ。夏休みの面談なんでこんなもんだよ。なんか他にあるか?」

 「うーん……」

 手を顎に当てて凪海花が考えてる風のポーズをとる。

 「?」

 「ない!」

 「じゃあ俺は帰るぞ。お大事に。」

 じゃあなと扉に向かって歩く。

 「えなんか冷たくないか!?」

 「冷たくない。貴方入院中なんだから静かに寝てなさい。」

 「えーなんか流された……。」

 「じゃあまあまたなんかあったら学校連絡してな。」

 「へーい。」

 今度こそ扉を開け部屋を出る。

 「先生、またね、さよーならー」

 「さようなら」

 中学生の言動は可愛いななんて思いながら扉をそっと閉めた。

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