ーepisode zero_five
『三千八百年 八月七日 水喰 凪海花』
窓の外の景色を眺める。
初めて見るその景色。
「凪海花、これ、着替えとか色々ここに置いておくからね。」
お母さんがそう言いそっと荷物をベッドの横に置く。
いつもと変わらない優しいその顔には心配と不安が隠されている。
「うん!ありがとう!」
そんなお母さんの心配を少しでも解くため、私は笑顔で答える。
「お母さんやっぱり一日中ここにいようか?ほら、凪海花、不安でしょう?」
「ううん!大丈夫だよ。お母さんは気にせず仕事に行ってきて!」
やはり心配が解けないのかお母さんは私をじっと見てそう言う。
「そう?じゃあ、仕事行ってくるね。何かあったら直ぐに連絡するのよ?」
「分かったって。そんな心配しなくても大丈夫。看護師さんたちもいるしね。」
「でもあなた、我慢ばっかして直ぐに言わないから……。ちゃんと何かあったら言いなさいよ?」
「はーい。」
「それじゃあ、また後でね。今日はプリンでも買ってくるから楽しみにしててね。」
「やったあ!行ってらっしゃい!」
わーい、プリンだー!
夜が待ちきれないぜ、なんて思いながらお母さんに手を振る。
「あ、そうだ、先生が面談がてらお見舞いに来てくれるらしいの。お母さん忙しくて三者面談出来ないからとりあえず先生から進路について、聞いておいてね。」
「りょぉーかーい!」
今度こそまた後でね、と扉を開けお母さんが出ていく。
ざわっち先生、来てくれるのかぁー。
飴を口に放り込む。
窓の方へ再び目を向けると、目の前の木に蝉が引っ付いていた。
もう夏なんだなぁ……。
することも無いし、ざわっち先生が来るまでまだ時間もあるからと、布団にくるまって寝ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます