第21話 王国暦270年7月15日 少し普段と違う朝

 大変長らくお待たせいたしました。

 諸事情により止まってましたが、エタってはおりません。

 とりあえず新章を更新します。4話分ほどです。




「今日は遠駆けにいかないかい、姫様」


 リザードマン討伐から2週間ほどしたよく晴れた朝、エドガーがやってきてセシルに言った。

 朝からエドガーがセシルを訪ねてくること自体は珍しくはない。

 

 ただ、いかないかい、と言ってはいるものの既にエドガーは準備万端だ。

 走るときに邪魔にならない様に袖や裾を絞った、動きやすい遠乗り用の緑の衣装に羽根をあしらったつばの広い帽子。

 鍛え上げた体と長身に少しタイトな衣装が似合っている。


 後ろにはエドガーの愛馬である黒鹿毛と、セシルのための葦毛の馬が並んで立っていた。

 いかないかい、と言ってはいるものの、これは有無を言わさず今すぐ行こうという方が正しいだろう。 


「さあ早く行こう」


 エドガーが言うが、言い方もわずかに雰囲気が違う。

 普段はどこかに行くにしても強引な中に悠然としているというか時間におおらかな雰囲気を感じるが、今日は少し焦っているようにセシルには見えた。

 そんなちょっとした違いも最近は感じ取れる気がする。


 急かされるように着替える。

 普段の外出ならスカートでもいいのだけど、遠駆けをするならそういうわけにはいかない。


 ラファエラの手を借りて、最近流行ってきた紺のキュロットスカートとロングソックスをはいて、馬の乗るときの短衣に着替える。

 その上に日除け用の薄い白いマントを羽織った。

 

 淑女が馬にまたがるのははしたないという風潮は未だに根強い。だから淑女が馬に乗るときは腰掛けるように乗る鞍を使う。

 しかし普段戦場に出るセシルはそんな優雅なことをしている余裕はない。


 ただ、最近は少し流行も変わっているようで、このような女性用の乗馬服も見るようになった。

 それは騎士たちと轡を並べて戦う凛々しいセシルの影響によるものなのであるが、当人は知る由もなかった。

 

「さあ、行こう」


 着替えて外に出ると、急かすようにエドガーが言って、あたりを伺うようにして馬にまたがった。セシルもそれに倣う。

 普段なら服装について一言何か言ってくれるのだけど今日は何も言ってくれないのも違和感を感じた。 

 

 先導するようにエドガーがまっすぐに東の城門の方に向かって馬を走らせていく。

 天気の良さもあって今日は人通りが多い。


「あ、セシルさまだよ」

「お姫様だ」


 沿道の子供たちが手を振ってくれる。セシルも笑ってそれに応えた。

 あの戦いのあと、少しづつ周りが変わっていくことを感じる。


 ガーランドの話では若手の騎士や傭兵の志願者が訪れてきているらしい。

 不吉な死姫ラ・モルテに率いられた厄介者の集団、掃き溜め扱いされていたことを考えると信じられない状況だ。 


 暫く走ると東の城門までは直ぐにたどり着いた。

 高い城壁にはめ込まれた城門は大きく開かれてて、普段通りに門衛が警護をして城に入る者、出る者の身分を改めている。


 王族であるセシルと、辺境伯の子であるエドガーはすぐに通ることができる。

 しかし門の周りは外に出ようとする市民や旅姿の傭兵風の男たち、城に入ってこようとする隊商の馬車でごった返していた。

 

 城から出る側の方も行列が出来ていてしばらくは待たされそうな雰囲気だ。

 エドガーが周りを警戒するように見る。何を急いでいるんだろう。


 エドガーがある一方を見て慌てて視線を逸らした。

 顔を隠すように帽子をかぶりなおす 


「ああ、エドガルド」


 セシルが不思議に思ったその時、一人の男がエドガーに声を掛けてきた。


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