第38話 やっぱり気になるなぁ
「職場の先輩から水族館のチケットもらったんだけど、条件が安藤さんと一緒に行って来いだって。夏子から上手く誘えないかな?前に言っていたダブルデートって事で、話を進めてほしいんだ」
今まで女の子をデートに誘った事のない冬馬にとって、たとえ気の許せる後輩だったとしても、声をかけて実質デートのようなものに誘うには、やはり敷居が高すぎた。やはりここは、安藤さんとも仲がいい夏子に頼むのが一番じゃないかと思った次第だ。そんな風に判断したので、仕事が終わってから夏子に電話してみた。
「本当は週末、二人で一緒に温泉行きたかったけどね。いいわ、美里ちゃんに聞いてみる」
「ありがと、今度、埋め合わせするから」
「当然ね。どんな無理難題を押し付けようかな♡」
「お手柔らかに…… 」
男としては、女の子に声もろくに掛けられないのはどうかなと思うけど、出来ないものは仕方がない。
(もしかして石塚さんが気にしていたのは、こういう事なのかな?)
夏子:美里ちゃんから連絡あったよ。今週の土曜日なら大丈夫って言ってた。
でも彼氏とは別れたんだって。だから3人で楽しもうね♡
冬馬:!?
〇インから来た通知を見た冬馬は、予想外の展開に吃驚しているキャラのスタンプで返事をした。因みに、擬人化された猫が驚いているという、冬馬にとって、数少ない購入したスタンプだったりする。
夏子:美里ちゃんの彼氏、仕事が忙しくなってきて、なかなか会えなくなったよう
で。それで、ちょっとしたいざこざから別れたみたい。でも美里ち
ゃんは思っていたよりサバサバしてるかな。
冬馬:そんな素振りも見せてなかったのになぁ。
冬馬にとって男女が付き合う事は、もっと重いものだと思っていたけど、自分の方がおかしいのかなとさえ思ってきた。もしかして自分の方が古臭いんだろうか?でも、結婚とか意識しなかったら、こんな感じの軽い気持ちになるんだろうか?
…………………………………………
「おはようございます。北野さん、週末、楽しみにしてますね♡」
出勤して早々、安藤さんと顔を合わせたが、本当に彼氏と別れたばかりなのだろうか?と思うくらい、噓みたいに普段通りだった。
「お昼休み、食堂に行きますからね」
(詳しい事はその時に聞かせてもらうとするか)
「あぁ、分かった。じゃあ、今日もしっかり仕事してくれよな」
「はい!では!」
そう言って、安藤さんは仕事の準備を始めた。
そして昼休み、いつもの予約している給食を食べ終わり、スマホを弄っていると、すぐに安藤さんがやって来た。うん、いつもの通り、平常運転だ。
「安藤さん、彼氏と別れたって聞いたけど、大丈夫?」
「大丈夫、気にしないでください。元カレ、どうやら二股かけてたみたいでしたから。酷い話でしょ?だからキッパリと別れたんです。まぁ後悔の気持ちがないくらいだから、その程度の存在だって事ですよね」
「何じゃそりゃ?」
安藤さん、未練とかないのかいな。まぁ本人が気にしてなさそうだし、大丈夫だろう。こっちが気にする事はなさそうで、その点では安心している。安藤さんが愚痴を言い始めたら、昼休みが終わってしまうだろうし。
「それに、私には北野さんがいますからね♡」
「はいはい、ありがとうな」
「もうっ、本当なのに!」
「嘘つけ、先輩を揶揄うんじゃありません」
夏子のおかげだろうか、安藤さんとはより親密に会話できるようになった気がする。いや、どっちかというと、更にお馬鹿な言い合いをするようになったんじゃないかと思ってみたり。
「夏子さんと一緒に遊ぶの、楽しみにしています」
「俺は?」
「荷物持ち、よろしくお願いします♡」
「ヲイ!」
とりあえず集合場所と時間を確認してみた。う~ん、どうもやっぱり、安藤さんには舐められている感じがする。何というか、安藤さんが半分強引に決めていったからなぁ。まぁいいけどさ。
「とりあえず土曜日、駅前に集合でよろしく」
「はい!ではまた!」
何とか昼休みの時間のうちに、必要な事は確認出来た。女の子に縁のなかった自分が、可愛い子を二人も連れて出かけるなんて、何だか信じられないというか、これじゃまるでリア充じゃないか!?
(明日は3人で水族館か。何だか不思議な気分だな)
本来なら、夏子と二人で日帰り温泉の予定だったが、ひょんな事から安藤さんと夏子と三人で水族館に行く事になってしまった。水族館なんて、いつ以来だろ?子供の頃に行って以来だからなぁ。冬馬にとっては、歴史とかサイエンスものとかは、興味を持っているので退屈はしないと思っているが、素直に楽しめるかなぁ。そんな余計な心配もしていた。
それよりも、あの日曜日以来、夏子に会えるのが楽しみだった。
…………………………………………
(まさか、北野さんと水族館に行く事になるなんてなぁ)
実は安藤さんは、会社の忘年会で飲み過ぎて気分を悪くした際に冬馬に介抱された時から気になる存在になっていた。恋愛感情を抱くほどではなかったのだが、それ以来、冬馬は頼りになる先輩という存在になっていた。それでいて、冬馬と安藤さんは会社では仲のいい先輩後輩という関係だったが、プライベートでの交流はなかった。それなのに、安藤さんと夏子は最近、よく〇インでのやり取りをしていたりするから不思議なものだ。
(この前見た、一緒にジュース飲んでる姿、いい感じだったなぁ)
安藤さんは買い物途中で偶然、冬馬と夏子が一緒にジュースを飲んでいる所に出くわした事を思い出していた。冬馬は恋愛よりも仕事や趣味を優先しているタイプだと 思っていたので意外に思えていた。そんな冬馬が女の子と仲良くしている姿は、今まで想像したこともなかった。仲のいい二人と一緒に遊びに行くなんて、お邪魔虫にならないよね?
(何であの二人が気になるんだろうな?)
安藤さんは強がっていたが、付き合ってすぐ別れる事となった元カレの事で、知らず知らずのうちに傷ついていたのかもしれなかった。二股をかけられていたのをキッパリと振っただけだから、そんなに気にする事ではないと思っていたのに、やっぱり気が付いていない部分で傷ついていたのかなぁ?
(ま、いいや。折角の水族館だから楽しもっと)
安藤さんは気持ちを切り替え、水族館を楽しもうと心に誓った。
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