第34話 好感度高いのは何故だろう?
「それでは、本日はこれで失礼いたします。お時間をいただきありがとうございました」
目的を果たした冬馬は、長居をするのも失礼だと思い、南田家を後にしようとしていた。冬馬は頭を下げ会釈すると、夏子もお辞儀をしたのだった。
「あら?折角いらしたんだから、晩御飯ぐらい食べていかない?」
予想外の夏子の母からの提案に冬馬は戸惑った。彼女の両親といきなりの夕食までは想定していなかった。どうすれば……。
「いえ、お構いなく……」
「あら?遠慮しなくてもいいのよ?ありきたりのカレーだけどいいかしら?」
う~ん、夏子に負けず劣らずというか、流石親子だというべきだろうか、夏子に負けず夏子の母も押しが強かった。まぁ、あの頑固そうで堅物っぽい父親さえ、力業で押し通す感じだからな。人は見かけによらないものである。
「別に用事があるわけじゃないでしょ?一緒にご飯食べましょ♡」
ここまで言われたら冬馬には断る事が出来なかった。まさか、更にイベントが進むとは、〇ハクの目を持ってしても読めなかっただろう。
「わかりました。ご馳走になります」
冬馬は今一度、頭を下げた。こうなったら、この
「それじゃあ、準備してくるから待っててね」
夏子の母はそう言うと台所に向かうのであった。リビングに残されたのは、冬馬と夏子の二人。二人は顔を見合わせて苦笑するのだった。
「なんかごめんね。お母さんが強引な人で」
と申し訳なさそうに夏子は言う。夏子にとって何となく、ばつが悪い感じがしたのだった。
「いや、大丈夫だよ。それより本当に良かったのかな?晩御飯までご馳走になって」
「いいじゃない、折角だし食べていってよ。お母さんのカレー、凄く美味しいんだから」
「そうだな、ご馳走になっていこうかな。実を言うと、カレーは大好きなんだ。南田家のカレーはどんなものか、楽しみにしているよ」
こうして冬馬は、夏子の家族と一緒に食事をする事になるのだった。夏子の父親は、自室に戻ったきりだ。多分、食事の時間になったら、また出てくるのだろう。
「冬馬くん、本当にありがとう。お父さんもお母さんも冬馬くんの事、気に入ってくれているみたいで。これで堂々とお付き合い出来るってものね」
「そうか、それならよかった。でも夏子のお父さんは寡黙な人なんだな」
「そうね、あまり感情を出さないし、口数も少ないんだけどね。でも本当は凄く優しい人なんだよ。不器用な人だっていうのは、よくわかるから」
あれだけ言い争いをして、プチ家出までしたはずなのに、夏子はそんな事も忘れたかのように、嬉しそうに話している。そういうのを見ていると、こちらも嬉しくなってくるものだ。時には喧嘩して対立する事があるかもしれないけれど、夏子と両親の関係は、良好な方だと思われる。そういう関係でいられる事に、冬馬は羨ましさを少々感じていた。そんなことを話している内に食事の準備が出来たようだ。カレーのいい香りが漂ってくる。それだけでも食欲が湧いて来るかのようだ。
「はい、お待たせ。沢山食べてね」
夏子の母親が運んできたのは、具が沢山入っている、南田家特製のカレーライスだった。如何にも家庭的というか、昔から日本の家庭でよく出されてきたような、そんな素朴さも感じられたが、冬馬にとっては、こういったカレーを食べる機会が少なかったので、嬉しく感じられた。早速、冬馬は南田家特製カレーライスを頂く事にした。
「うん、美味しい!」
と思わず声が出てしまうほど美味しかった。市販のありきたりのカレールーを使っただけかもしれないけれど、何か隠し味でも加えているかのようで、どこか一味違うように感じてしまう。こういったカレーを食べるのは、いつ以来かな?と思ってしまった。そんなカレーを美味しそうに食べる冬馬を、夏子は嬉しそうに見つめるのだった。
「冬馬くんは、カレーライスに拘りとかある?」
美味しそうに一心不乱で食べている冬馬を見て、気になって夏子は尋ねてみた。
「うちでは、〇-モンドカレー一択でさ、辛いカレーとかは縁がなかったんだ。まぁ、ジャガイモとか人参とか玉ねぎがたくさん入っていて、それはそれで美味しかったんだけど、やっぱり、もうちょっと辛めのものも食べたかったかな。母親が辛いのがちょっと苦手だから、辛くするのは無理だったけどね」
まぁ今なら、辛さを調節するようなスパイスとかも探せば売っているけれど、昔はそういうのは手に入りにくかったのは事実だ。
「わたしも、具が沢山入っているカレー好き」
夏子も家で作るカレーは大好きだと、熱心に話すのだった。調理の手伝いは、面倒だからと嫌がっていたみたいだったが。
「どう?うちのカレー、辛口だけど大丈夫だった?」
夏子の母親も話に加わってくる。普通は娘の彼氏とかには、信用に足りると思えるまでは慎重に接してくるものだろうけれど、夏子の母親は、最初からそんな事は関係ないように接してくる。そんなに好感度を上げるような事はしていないと思うのだけれど……。
「一時期、インドカレーに凝っていたから、辛いのは大歓迎ですよ」
「あぁ、そういえばそんな事言ってたわね」
「一人暮らしを始めた頃は、色々な店のカレーを食べ比べていたんですよ。インドだけじゃなく、ネパールとかタイカレーとか。インドカレーに凝っていたのは、そこで出てくる焼きたての大きいナンが食べられるからですね。こういった大きいナンは、家では絶対作れないし。外国のカレー以外でも、地方で有名な〇ャンピオンカレーとか〇-ゴーカレーとか、そういう店があったら、喜んで入っていきましたし」
「へぇ、成程ねぇ。北野さん、結構グルメなの?」
珍しく饒舌に話す冬馬に、夏子の母は感心していた。普通は、いきなりこんなに喋りだしたら閉口するものなんだろうけれど。どうも普段は口数が少ない冬馬も、好きな事に関しては饒舌になる傾向になるのだが。それでも夏子の母親に呆れられなかったのは幸いだった。
「いや、グルメって程では……。凝ったもの作れないですし、包丁も苦手だし……」
「あれ?冬馬くん、結構料理作っているじゃん」
「本当に簡単に出来るものしか作れないよ。包丁も人参とかジャガイモの皮むき出来ないし。リンゴさえ真面に皮むき出来ないんだよ」
確かに、夏子が見てきた冬馬の料理は、簡単な手順のものばかりだった。でも手際は良かったと思えた。カット野菜とかも上手く使っていたなと。
「本当は、もうちょっと包丁とか使えたら、料理な幅も広がるんだろうけれど。なかなかその気になれないんだよね」
「よかったら、またうちに来なさいな。料理ぐらいなら教えるからね」
予想だにしなかった、夏子の母親から意外な提言があった。これは、これからも来てもいいという事か。随分と好感度が上がったようだ。勿論、ゲームの様なエフェクトなどないから、どのくらい好感度が上がったかもわからないが。
「お母さん、わたしが教えるから大丈夫よ。余分な事しないで」
これはたまらないとばかり、夏子も話に入り込んでくる。流石に冬馬を取られるとは思ってはいないだろうけれど。兎に角、夏子の母親には完全に気に入られた様だった。因みに、夏子の父親の方は、終始無言だった。この人は、どういう考えをしているか見えてこないので、対応には困りそうだ。
今まで包丁の使い方だって自己流でやって来たのだけれど、この際、料理をしっかり教えてもらうのも悪くないかなと、冬馬は思いはじめてきた。そして自分の家では失われた感のある、家族同士の温かい交流を羨ましくも感じていた。
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