第28話 何故ここに?
とりあえず買いたいものは確保したし、食事も取ったからお腹もいっぱいだ。という事でショッピングモールには、もう用はなかった。
「そろそろ帰ろうか?」
「そうね、あっそうだ、何か甘いもの食べたいなぁ。どっかに寄ろうよ」
「えっ?もうお土産も買った事だし、帰らないの?」
それでも夏子はスイーツを食べたいと圧をかけ、デザートを探しに移動を始めた。こうなると、もう夏子を止める事など出来ないのだ。
(さっきはもう食べられないって言ってたのに。やっぱりデザートは別腹なのか?)
半分冬馬が呆れながら、二人が向かったのはカフェコーナーだった。とりあえず目に入ったのはクレープだったので、これを注文することにした。冬馬にとってクレープを食べるのって、いつ以来だろうと思うくらい食べる機会が少ないものだ。そしてこんなに色々な種類があるなんて思ってもみなかった。具材によっては食事代わりでもいいくらいのものもあったりして。
何にしようかと迷った二人だったが、注文したのはオーソドックスなバナナとチョコのクレープだった。冒険するのもいいかもしれないが、やっぱり定番のものが安心出来る。二人は店員の人が生地を薄く伸ばすのを見学しながら、出来上がるのを待っていた。
「夏子、飲み物はどうしようか?」
「私は特にいらないかな」
「じゃあ俺は、よく行く店に行こうかな」
冬馬は、そこから近くにある生ジュースを販売している店へと移動した。季節のフルーツを中心に、注文してからミキサーに入れて作るスタイルとなっている。値段は少々高いけれど、新鮮な生ジュースは、他に変えられない美味しさがあるのだった。
「ここは福袋の気前が良くてね、殆ど毎年買っているかな。4500円するけれど、無料チケットが10枚も付いてくるから、かなりのお得感があるね」
冬馬はチケットを取り出し、一番高いメロンジュースのLサイズを注文した。因みに、普通に買うと700円以上するものだから、如何に福袋のチケットかお得かわかるものである。
「どう?味見してみる?」
「うん、ちょっと飲んでみたい」
二人は席を確保して、クレープを食べながら一緒にメロンジュースを堪能した。
「わぁ、メロンの味が濃くて美味しい♡」
「ここのジュースは美味しくて気に入っているんだ。それなりの値段はするけどね」
二人は一つのジュースを代わりばんこに飲みあった。冬馬がちょっと飲んで、今度は夏子が飲む。その姿は、まるで初々しい学生のカップルみたいだった。
「あれ?もしかして北野さん?」
二人仲良くジュースを飲んでいるところに、誰かから声をかけられたので驚いた。しかも何処かで聞いた事のある声だ。まさか……、
「何で安藤さんがここにいるの?ここは家から遠いんじゃなかったっけ?」
「いえ、ここにはたまに服とか見に行ってますよ。それより北野さん、やっぱり彼女がいたんじゃないですか?勿体ぶらないで紹介してくださいよ~」
まさか職場の後輩である安藤さんと鉢合わせするとは予想だにしなかった。ここまで決定的なシーンを見られたんじゃ誤魔化す事も出来ない。冬馬は、やれやれと思いながら夏子を紹介した。
「私、北野さんの後輩の安藤美里っていいます。よろしくお願いしますね」
「わたしは冬馬くんの一応、彼女になるのかな?南田夏子っていうの。よろしくね」
夏子は手を差し出し、安藤さんと握手をした。コミュ障気味の冬馬とは違って、安藤さんと夏子は、あっという間に打ち解けたみたいだ。うん、仲良き事は美しき哉。
「それにしてもいい話のネタですね。真面目一本鎗の北野さんに彼女がいたとはねぇ。これは早速みんなに話さないといけないなぁ。みんなどんな反応するのかなぁ?」
「安藤さん、この事はご内密に……」
「冬馬くん、別に話してもいいんじゃない?わたしは構わないよ」
「いや、みんなに冷やかされるのが嫌なんだ。時期が来たら話すつもりだから、今は内緒にしてほしいな」
「う~ん、どうしようかなぁ?私は口が軽いから、つい喋っちゃうかも♪」
安藤さんはもの欲しそうな表情で冬馬を見つめていた。ダメだ、こんな目で見つめられたら断り切れないじゃないか。やっぱり安藤さんは確信犯だ。仕方ない、これで手を打ってもらおうか。
「わかった、こいつで手を打とう」
冬馬は、ここのジュース屋の貴重な無料チケットを1枚差し出した。もう残り少なくなってきたけど、仕方がないか。
「もう一声欲しいなぁ♡」
冬馬は渋々、チケットをもう1枚差し出した。
「ありがとうございます♡流石は先輩ですね♡」
安藤さんはニコニコ顔をしていた。こんな顔をされたんじゃぁ、憎めなんかしないよなぁ。ホント、安藤さんはいい性格してるよ。
「ねぇ、安藤さんはどんな服を買いに来たの?」
夏子が興味津々に安藤さんに尋ねてみた。安藤さんもまた可愛い顔立ちなので、夏子は安藤さんがどんなファッションを捜しているのか気になっていた。
「私は今年、流行ってるやつと秋物の新しい服を見に来ています」
「へぇ~どんなのが好みなのか聞かせて。わたしファッション雑誌はよく買っているから興味はあるんだぁ」
安藤さんが好みのブランドとかを答えると、夏子がスマホで服を検索してみる。
「これこれー♪わたしはこんな感じの服が好きなんだぁ」
「へえー、いいじゃないですか?あ、これもいい感じですね」
「あ、この色可愛い♪欲しくなっちゃう♡」
とか、2人がファッションの話で盛り上がっていた。その反面、ファッションには疎い冬馬は退屈そうにしていた。話についていけないからどうしようもないか。
(しかし初めて会ったのにもう仲良くなって。夏子のコミュ能力凄いなぁ)
「夏子、そろそろ行こうか」
「そうですね、南田さん、またお会いしましょうね~♡」
「あ、待って、夏子でいいわよ。ねぇ連絡先交換しましょう」
「私も美里でいいですよ。またお話してもいいですか?」
「うん、職場での冬馬くんの話も聞きたいなぁ♡」
(まさかこれが目的で連絡先の交換を?夏子って意外と策士だな)
安藤さんと別れて二人はショッピングモールを後にした。
「さて、そろそろ帰ろうか。まさか安藤さんに会うとはなぁ」
「うん、ちょっと驚いたけど。仲良くなれてよかった。さぁ帰りますか」
いつものショッピングモールだったけど、夏子にとっては満足度は高かった。明日の事もあるし、リラックス出来たなら何よりだ。
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