phase03 出来るなら認めてもらいたいと思うもの
第26話 一度帰宅した方がいいかなと
「今度の日曜日に夏子の実家に行こうと思う。連絡付けてくれないか?」
食事を終えて一息ついた後、冬馬は切り出した。もう何日も夏子はここに泊まっている。これ以上は流石に親御さんにも心配かけすぎてしまうのだろう。やはりこの辺りが潮時だなと思えてきた。
「ごめんね、巻き添えにしちゃったみたいで」
「気にするな。いずれは顔を合わさないといけないんだから」
冬馬にとっては、もう夏子がいない生活は考えられなかった。付き合っている日数など関係なかった。早いうちに夏子の両親と顔をあわせた方がいいとは思ってはいる。しかしながら、どう接すればいいんだろうか?
「お父さん、お母さんと、冬馬くんが会うなんてね。何だか変な気分……」
「え、なんで?」
「だ、だって出会ってすぐに挨拶するなんて普通じゃないもん」
夏子は顔を赤らめながら話す。あまり期待していなかった合コンでの冬馬との出会い。ほんの僅かの間で、こんなに強い絆が出来るなんて、誰が想像出来ただろうか?
「出会ってからの時間なんて、そんなの関係ないよ。自分には夏子は大切な人になったんだ。自分だっていきなりご両親に会うんだから、どうしたらいいかわからない。でも大切な人の家族に会うんだから、きちんと話をするべきじゃないかと思っている」
冬馬は優しい笑みを浮かべて言う。冬馬だって人付き合いは苦手だ。上手く話せる自信はない。でもいつまでも夏子と両親がいがみ合うのは見たくはない。だから自分が何とかしないといけないのだ。
「下手をしたら、また次のお見合い話が出てくるぞ。だからこの際、お見合いはしたくないと、はっきり言った方がいいからさ」
「そ、それに関しては、わたしからもお母さんに話すつもり」
と言いつつ、冬馬は少し不安そうにしていた。話が拗れてここに来ているのだから、話して解決出来るのか?夏子の気持ちの整理は出来ているのか?そう言った所が冬馬が不安になっている部分だ。
「大丈夫だよ、心配しなくても。ちゃんと話すから」
夏子は笑顔でそう言ったが、やはり不安だった。
(上手くいくだろうか……)
「土曜日になったら手土産を買いに行こう。ついでに買いたいものがあったら何か買おう。またいつもの所になるけど、いいかな?」
「手土産を持っていくの?そこまで気を使わなくてもいいのに」
「いやいや、最初が肝心だ。悪い印象は持たれたくないからね」
「ふ~ん、そこまで気を遣うかなぁ」
夏子は軽く言うが、冬馬にとっては大事な事だった。ファーストインパクトというのは重要な事だ。最初に見た印象で、大体の人物像が評価されるものだ。しょっぱなから悪い印象を持たれたら、この後の話には持っていく事さえ難しいだろう。
「あの、冬馬くん、実は……」
夏子が何か言いかけたが、冬馬は途中で遮った。
「夏子は、気まずくて家に帰りたくないんだろう?わかるよ、その気持ち……」
冬馬の表情が急に曇っていたのに驚きながらも、夏子にはその言葉の意味がわかった。冬馬自身も両親から距離を置いている。今更どういった顔で会えばいいのかって、そう思っているはずだ。
(多分、お父さんは許してくれないんだ、冬馬くんとの事を……)
それでも夏子は冬馬の側を離れたくないと思っている。だから今回は失敗は許されない。どう父親と話すべきなのか、少し考えをまとめたい所だ。でもどうすれば……。
(ちゃんと話せば、必ずわかってくれるわ。きっとそう。そう信じたい……)
決戦は日曜日。
その時に自分の気持ちをはっきりと両親に伝えたい、夏子はそう強く思った。
「お、お母さんだけじゃなくて、お父さんにもちゃんと話してみる」
夏子は覚悟を決めたように言った。
(大丈夫さ、きっとわかってくれる)
冬馬は心の中で自分に言い聞かせていた。
「で、一応聞くけどさ……」
「何?」
「夏子のお父さんってどんな人?」
「どんな人って言われても……」
冬馬は、夏子の父親が変わり者じゃないことを祈っていた。全く話を聞いてくれないような人だったら、どうしようもないし。うん、やっぱり気になるな。
「優しい人だと思うよ。ただね……」
「ただ?」
「口数は少ないからね。最初はとっつきにくいと思う。でも話し合えば大丈夫だと思う。多分……」
(何か不安になって来たぞ)
元々一人を好んできた冬馬は、当然ながら会話は得意ではない。果たして口数の少ない、ちょっとくせがありそうな夏子の父親とちゃんとした話し合いが出来るだろうか?少々不安にはなっているが、ここは自分がしっかりしないとどうしようもないと、冬馬は覚悟を決めた。自分が出来る限りの事をするだけだと。そして夏子の為に、夏子と一緒になる為に……。
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