第24話 想い出の味をもう一度
「さぁ、今日はどうしようか?」
翌日、朝食を食べ終えた後、いつものように相談を始めた2人。
「ねぇ、何か食べたいものある?晩御飯はリクエストに応えてあげるよ」
「う~ん、そうだなぁ…」
どうしようか冬馬は考えてみた。冬馬は好き嫌いは基本的には無いので何でも食べられるのだが、いざリクエストというと、なかなか思いつかないものだ。
「じゃあ、ひじきの煮つけを作ってほしいかな」
「えらく地味だけど、これでいいの?作れない事はないけど」
夏子は予想外の答えにちょっと驚いていた。一般的なメニューをリクエストするかと思っていたのに、思いがけない変化球に戸惑いもあったりする。
「自分で作ろうにもなかなか手間がかかるから作らないし、何より祖母がよく作ってくれて好きだったおかずなんだ。よく焚き込みご飯も一緒に作ってくれたけれど、凄く美味しくて何杯もおかわりしたっけなぁ」
冬馬は昔のことを懐かしんでいた。子供の頃は祖母が可愛がってくれたっけなぁ。よく遊びに行って、ご飯も食べさせてくれたなぁと思いだしていた。
「おばあちゃんじゃなくて、お母さんの得意な料理って何かないの?」
夏子は、冬馬が母親でなく祖母の料理の方を思い出すのが気になっていた。
「うちの母親、仕事とかで帰りが遅くなることが多くて、手料理は少なかったかな。手の込んだものは基本作らなかったし、出来合いのものとか、食べに行ったりとかが多かったかな。だからかな、祖母の所に行った時の料理が印象深いんだ。実際に美味しかったしね」
「わかった、満足するものが出来るかわからないけど、挑戦してみるね。ひじきの煮つけと炊き込みご飯を作ってみようかな。後は豚の生姜焼きでいい?」
「ああ、ありがとう。楽しみにしてるよ」
「もちろん、期待に添えるように頑張りますよ!」
夏子はガッツポーズをしながらそう言った。
(かわいいなぁ)
と冬馬は思いながら頭を撫でた。まるで冬馬のペットみたいに夏子は、にこやかな表情をしている。やっぱり可愛いなぁ。
(さてさて、どうしようかな)
夏子は掃除、洗濯を済ませた後で、スーパーへと買い物に出かけた。ひじきの煮つけと炊き込みご飯の材料、追加の生姜焼きに使う豚肉、その他足りないものを買っていった。
(冬馬くんの思い出の料理はどんな味かわからないけど、自分なりに納得いくものを作らないとね)
そう思い、夏子は奮起した。冬馬くんが喜ぶように頑張らないとね。そんな事を考えながら、買いたいものをしっかりと吟味する。買い忘れはないかな?確認をした後、会計を済ませ、後は帰路につくのだった。
「ただいま~」
夏子は家に帰ると、早速料理の準備に取り掛かった。普段は作る事のない料理なので、〇ックパットを参考にして作り方やコツを確認してみる。そしてスマホで検索すると丁度いい動画が上がっていたので、それを見ながら実践してみた。手始めは時間のかかる炊き込みご飯の準備からかな。
最初は具材を切る事から始めた。油揚げ、人参は、後でひじきの煮つけを作る時にも使うから多めに切る。出来る限り細切りにするのがいいのだと。後は生姜や
とりあえず切るものは切ったので、次の準備をする。鰹節をレンジでチンするといった事は普段やらない事なので、これがいい味の元になるのかなと。フライパンに少量のサラダ油を入れて鶏もも肉を炒める。鶏の皮からいい油が出て、油揚げの油と合わさってご飯にいい味が付くのだとか。切った具材を入れ適度に炒めたら、醤油、みりん、酒を必要な分量を入れ、更にオイスターソースとうま味調味料を入れて水分が無くなるくらいまで炒める。なかなかにいい香りがするから、美味しいものが出来るだろう。そして軽く米を研ぎ、炊飯器に米と先程の具材を入れ炊いていくわけだ。炊飯器のモードは炊き込みにするのを忘れないようにしないと。というわけで、後は炊けるのを待つだけだ。
続いて、ひじきの煮つけを作る用意をする。手始めは、芽ひじきを水に入れて沸騰させて下茹でをする。さっき切った人参、油揚げの残りに加え、しめじも切る。ひじきが茹で上がったら、フライパンにごま油と具材を入れて炒めていく。人参、油揚げ、しめじの順で炒めるのがコツだ。最後にひじきを入れて炒めていく。めんつゆとみりんを加え、浸るまで水を加えて煮ていくわけだ。沸騰するまでは強火で、後は弱火にしていく。それなりに手は掛かる料理だ。ある程度、水分が無くなってきたら和風だしを少量加えて完成となる。後は好みで香り付けとかするのだが、ゆずの皮とかを削るといいらしい。そこまでは用意はしていないが。
(この匂い、何となく好きだなぁ……)
普段は、ひじきの煮つけなんてあまり食べる事はなかったけれど、この香りは好きな部類に入るかなと。成功したら定期的に作るのもいいかなと。
(そういえば、冬馬くん何してるのかなぁ?)
ふと気になってスマホを見るが、特にメッセージも入っていないし着信もないようだ。
(まぁいっか!ゆっくり待ってようっと)
そう思って、夏子はソファーに座り寛いでいる。冬馬が帰ってきたら、豚肉の生姜焼きも炒めるつもりだ。味噌汁も時間を掛けて煮る具材は使わないので、冬馬が帰ってきてからで大丈夫だろう。今日作った料理、冬馬くん、気に入ってくれるといいのだけれど。そんな事を思いつつ、夏子はドキドキが止まらなかった。
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