第23話 冬馬くんのプライベートな時間 ブログ編
前日は冬馬は疲れ切っていて熟睡していたので、翌日の夜は、一昨日の音楽談義の続きとなった。その流れの中で、冬馬が密かに書いている音楽関連のブログの事の話になった。夏子との出会い以降、更新はあまりされてはいなかった冬馬のブログ。流石に夏子と一緒にいる時には、書くわけにはいかなかっただろうし。夏子の事について悩んでいた時も進まなかったし。というわけで、現在絶賛停滞中であった。
「折角だから、冬馬くんのブログも見てみたいなぁ。見せてよね、いいでしょ?」
「マニアックな内容だから、読んでもつまらないと思うけどなぁ。知らない音楽ばかりだよ」
「それでも、読んでみたいの」
夏子の圧に屈して、冬馬は渋々、自分のブログのページを開いてみた。
「こういう風になっていたのか。私はあんまり、こういう音楽はわかんないかな」
夏子は冬馬のブログのページを一つ一つ見ていくが、残念ながら内容に関してはチンプンカンプンだった。普段、聴くような音楽の内容は出てこない。夏子は冬馬と同じ感性を持ち合わせているか自信がなかった。確かに少し硬い文章ではあるけど、それを彼は面白いと思って書いているわけで、冬馬なりの拘りの部分はあると思う。他の事もそうだ。普段何気なく使っている物や事柄でも、彼はそれに興味を持っている。その興味の対象がたまたま音楽だっただけであろう。夏子は彼が興味を持っている事を自分も知りたい、同じ気持ちを共有したいと思うのだった。
「ねぇ、書きかけの記事とかはあるの?」
夏子は少し迷ったが、冬馬が今現在、どんな事を書こうとしているのか、興味があった。
「まぁ、あるけど、ちょっと気恥ずかしいかな」
冬馬は、編集中のページをクリックする。夏子はまずタイトルを確認した。そこには『音楽について』と書かれていた。
「実はエッセイのコンテストに挑戦しようと思ったんだけど、他の人の作品を読んでみたら、どれもこれも面白くてさぁ。何ていうか表現が豊かなんだよね。でも自分の書く文は真面目過ぎる感じがしてね、ちょっと無理だと思っちゃったんだ。だから途中で止まっているんだ」
確かに冬馬の書くブログの文は、真面目過ぎる感じはしていた。曲についての思いの強さは伝わるけれど、どちらかというと解説文に近いのかなと夏子は思っていた。
「それで、どうしたらいいのかなって思ってたら時間が経っちゃったんだよね」
「そうなんだ。じゃあ私が読んでもいい?」
「うん、まぁ、いいけど……」
夏子はそのページを読むことにした。そこには『音楽について』というタイトル通り、冬馬が思う音楽についての思いが書かれていた。要約するとこうだ。
『例えば好きな曲があったとして、それを聴くとその時の情景や気持ちを思い出すということがあると思う。それはその曲を聴いた時の自分の状況や環境によって変わるだろう。例えば学生の頃だったら友人と一緒に聴いていたから楽しかった思い出が甦ってくるだろうし、大人になってからだと一人で聴いている時に「あぁ、あの時のあの曲か」と思い出すこともあるかもしれない。またその逆で音楽を聴いている時に悲しい思い出が甦ってきたりする事もあるだろう。その時の自分の状況や心情によって結果は違ってくるはずだ。
そして思うのだが、音楽には人を動かす力を持っている。もちろん人それぞれ好みはあるだろうし、ある人にはいい曲だけど、別の人にはイマイチだったりするかもしれないが、少なくとも古くから聴き継がれている曲は、多くの人に受け入れられているし、これからも聴き継がれていくであろう。そして自分は、埋もれようとしているけれど、消えていくには勿体ないと思えるような曲を探してみたい。自分が好きだと思う曲は、多くの人に受け入れてもらいたいし、聴いてもらいたいと思っている』
「うん、やっぱり冬馬くんは真面目だよね」
「そうかな?なかなか受け入れてはもらえないと思うけれど」
「だってこんな文を書ける人なんだから、きっと受け入れてもらえるよ。だからもっと自信を持っていいと思うなぁ」
夏子は嬉しそうに言った。彼女の言葉はいつもまっすぐで優しいなと思う。その優しさにいつも救われている気がするのだ。
「それにね、この記事を読んでいる人にもきっと共感してもらえると思うよ。だって冬馬くんの言葉からはちゃんと愛情を感じるもん。だから私は好きかな」
「ありがとう」
褒めてもらえる事に慣れていない冬馬だが、これは素直に嬉しかった。自分の思いや考えを理解してくれる人がいるというのは幸せな事なんだろうと思えるのだった。
「でも、この辺りはもうちょっとくだけた感じでもいいんじゃない?」
「う~ん、こんな感じ?」
「まぁ、さっきよりはいいかな。まだまだ硬い感じがするけどね。
夏子が指摘して冬馬が修正する作業が暫く続く。いつもの文体とは違っているが、まぁこんな感じもたまにはいいだろう。そして一通り作業が終わり、一応、完成はしたのだった。
「私と冬馬くんの愛の共同作業だね♡」
「何か違う……」
まぁ、たまにはこういうのもいいだろう。投稿するかどうかは、迷っているが。
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