第20話 穏やかな気持ちの朝
「ん?今何時だ?」
目が覚めた冬馬は、置き時計で時間を確認した。
(6時前か。起きてもいいな。)
起きようと隣を見たら、夏子の姿が見えなかった。
(トイレにでも行っているのかな?)
そういえば、昨日はバタバタしていて、いつもしている翌日の朝ごはんの準備をしていなかった。冬馬は失敗したなぁと思っていた。
すると、キッチンの方で物音が聞こえてきた。夏子が何かやっているのだろうか?
「夏子、朝ごはん作っているのか?」
「冬馬くん、おはよう。勝手に冷蔵庫開けて材料使っちゃった。ゴメンね」
「いや、気にしなくていいよ。昨日は何も準備していなかったから助かったよ。ありがとう」
冬馬にとって、夏子の何気ない気遣いがありがたかった。
「あんまり凝ったものは作ってないけどね」
あり合わせのものを使っただけとはいえ、それでも、だし巻き卵とキャベツともやしとウィンナーの炒め物、そして大根の味噌汁が用意してあった。それに加えて冬馬がよく食べる納豆と豆腐を加えたら、結構な朝食のメニューとなっていた。タイマーをセットしてあった炊飯器のご飯が炊けたから、二人で朝食をいただく事にした。
「ありがとう、早速食べるよ」
冬馬はお礼を言うと、手を合わせて『いただきます』と。勿論、夏子も一緒だ。
そして早速箸をつける。夏子は冬馬の事をじっと見つめている。そんなに気になるのだろうか?まあいいや、まずはだし巻き卵からいただくとしよう。
(うん、うまい。塩加減が絶妙だ。それに大根の味噌汁も好みの味加減だ)
「冬馬くん、おいしい?」
「ああ、とても美味しいよ。夏子はいいお嫁さんになるな」
「えへ、そうかな?嬉しい……」
そう言うと夏子は照れたように笑った。その顔がとても可愛くて、冬馬は思わずドキッとしてしまった。ダメだ、真面に見つめられない。可愛すぎるだろ。冬馬は照れ隠しのようにご飯をかき込んだ。そんな様子も夏子はじっと見つめている。
「どうかしたか?」
「ううん、何でもないよ」
そう言って微笑むと、彼女は食事を再開した。結局その後も夏子は俺の顔をじっと見つめていた気がするが、特に気にすることなく食事を続けた。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまでした」
夏子は嬉しそうに言った。なんだか新婚夫婦みたいだなと冬馬は思った。食器を片付けた後、俺たちはリビングでテレビを見ていた。まだ出勤するまでに余裕はあった。
「夏子、今日はどうするんだ?」
「ん~、どうしようかな?お掃除とかしてもいい?」
「いいのか?それじゃ頼もうかな」
「わかった。エッチな本見つけても黙っていてあげる」
「おーい」
夏子は冗談っぽく言ったが、冬馬は内心ヒヤッとした。もっとも、エッチな本は無くてもスマホにデータは入っていたりはするのだが。それよりも昔購入したエッチなDVDとかはどこかに隠したつもりだけれど、見つけられたら、それはそれで嫌だなと思ってみたりはする。
そんなやり取りをしていたら、いつの間にか出勤の時間になっていた。
「よし、そろそろ行ってくる。留守番はよろしく」
「うん、任せてね。いってらっしゃい」
そして夏子は、いってらっしゃいのキスをする。顔を真っ赤にした冬馬は、玄関に向かうと靴を履いて外に出た。
(ホント、新婚さんみたいだな)
冬馬はそう呟いて家を出たのだった。冬馬は通勤路を歩きながら、さっきの事を思い出していた。やっぱり『行ってらっしゃいのキス』なんてされると照れてしまう。
(こんな穏やかな気持ちになるなんて、いつ以来かな)
そう思うと自然と笑みが溢れるのだった……。
(夏子と二人で楽しい生活をしていきたいなぁ……)
「よし、今日は早めに帰るぞ!」
そう決意して冬馬は会社に向かうのだった。
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