第21話 冬馬くんには内緒♡

「北野さん、今日はご機嫌ですね」

 職場で唯一の後輩である安藤さんが話しかけてきた。基本的に仕事も卒なくこなす真面目でいい女の子なのだが、友達と出かけるのが好きで、よく休みに関して同僚と衝突するのが玉に瑕だ。暇な時に余分なお喋りをして注意されたりもしている。そんな時は冬馬が嗜めたりするが。


「そうか?まあ、そうだな」

 冬馬は曖昧に答えた。安藤さんは鋭いところがあるので少し警戒していたからだ。

(ま、流石に俺と夏子が同棲まがいの事をしているなんて知らないだろうけどな)

「北野さん、わかりやすいですからね。今週は沈んでいたかと思ったら嬉しそうにしてますし」

「おいおい、そんなわかりやすいの?」

「わかりやすいですよ」

(……。知らぬは自分ばかり也か)

 確かに石塚さんにも心配されていたしなぁ。ポーカーフェイスは苦手とはいえ、表情に出ていたのはなぁ。余分な心配をかけられるのはやはり嫌だった。

「北野さん、見てて飽きないですよ」

「……、仕事しなさい」

 安藤さんは、顔を膨らませて仕事に戻った。

(今日は、ある程度仕事を片付けて帰らないとなぁ)



(冬馬くん、普段は掃除なんてしっかり出来ないと思うから、今日は時間を掛けて掃除してあげないとね)

 夏子はシーツや枕カバーを洗濯機の中に入れた。すでに1回洗濯を終えているから2回目となるが、洗濯をした方がいいものが色々出てきてしまっていた。まあ時間はたっぷりとあるのだから焦る必要もなかったけれど。


(二人で一緒に寝るなら、ベッドも出来ればダブルがいいなぁ。冬馬くんに相談しようかな?まだ早いけれどね)

 冬馬が今使っているのはセミダブルのベッドだが、やはりもう少し大きいのがいいなと感じていた。これからも何度も一緒に寝るからと。多分の話だけれど。 

(とりあえずは洗濯物はこれ位か。天気が良くてよかった)

 追加分の洗濯物もベランダに干して、夏子は次の作業をすることにした。



(よし、次は掃除をしようか)

 そして次に掃除を始めた。リビングに掃除機をかけ、拭き掃除をする。

 多少は散らかっていたが、夏子はテキパキした動作で片付けていく。慣れた手つきだ。普段からしっかりと掃除している証拠と言えた。

 その次は寝室の掃除に取り掛かった。ベッドのシーツは取り換えて洗濯済みだったので、掛け布団を干したりもした。一応、ベットの下も確認して埃を取ってみたが、残念ながら、えっちぃ本や、いやらしい的なDVD等は見つからなかった。流石にわかりやすい所には隠さないか。

 更にはトイレや浴室も綺麗に掃除する。家にあった洗剤類ではあまり汚れが落ちなかったので、今度、近所にあるドラッグストアで探して見ようかなと考えていた。少し値段はするけれど、よく落ちる業務用でも使えるような洗剤類も売っているのだ。

(どうせなら冬馬くんと買い物にいって、一緒に選びたいな)


 気がついたら洗濯物が乾いていたので、部屋の中によせて畳んでいく。掛け布団も忘れずによせないとなぁと思ってみたり。そして洗濯物の中に、冬馬の下着もあった。

 夏子は思わず、つい掴んで匂いを嗅いでしまった。まだ加齢臭が出る年齢ではないが、夏子にとって安心できる匂いだった。


(あ、なんかいいなぁ。安心する匂いだ)

 そんな事を考えていると、無意識に右手が動いていた。

「冬馬くん……、好き……」


 ♡♡♡


「あれ?いつの間にか寝ちゃってた?」

 あろう事か夏子は洗濯物を畳んでいる最中に意識を失ってしまっていたらしい。更には夢の中でも冬馬とイチャイチャしていたようで、夢の中でも夢心地だったという、訳の分からない状況だった。起きた後も、何だかふわふわした不思議な気分だった。

「え?もうこんな時間?」

 気が付いたら、もう夕方に近い時間だ。洗濯物を急いで畳み、買い物の支度をする夏子だった。


(早く買い物してこないと冬馬くんが帰って来ちゃう)

 冷蔵庫の食材が心許なくなってきたのでゆっくり買い物したかったが、予想外のアクシデント(?)で、最低限のものだけ買い物を済ませるのだった。

(もっと余裕を持って行動するつもりだったのになぁ。失敗しちゃった)

 まぁ何と言うか、如何にも夏子らしい事で。

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