中華街と食の喜び(下)

平日の割に人が多いのは春休みだからだろうか。しばらく歩くと似たような看板や飾りが多いのに気づく。中華街の中に何店舗も支店を持つ店もあるらしく、同じ名前のお店もいくつか見かけた。似たような看板や店の中から私が次に選んだのは歩きながら食べれる北京ダックだ。お手頃な値段で高級な食べ物が食べれるなんてなんていい国だ。この時ばかりはこの美食の国に生まれてよかったと思う。ちなみに彼氏はビールを買っていた。彼曰く、中華にはビールが一番で飲まんやつは中華街を半分損しているらしい。酒より食な私は早く口に入れることで頭がいっぱいだ。

早速店員さんから手渡されたそれを口に含む。もちっとした皮に包まれたのはとろりとしたタレと水菜、そして肉もついた皮だった。水菜を噛み切れず格闘している間に彼氏はうまそうな顔でビールを飲む。ちょっとおっさんくさい。格闘の結果、噛み切れず…味の方はまあ美味い。あまじょっぱいタレがよく絡んで水菜と肉のバランスがいい。これがこの値段で食べれるのだから美食の国万歳である。ただ高い北京ダックも食べてみたいものである。安くて美味いものはそりゃ美味いのだが、高くて美味いものはそれはもう美味いのだ。

人がさらに多くなってきた。メインストリートに入ったらしく、店もいわゆる映えを意識した店が増えてくる。路地の角のお店でおばちゃんが「イラシャイマセー」と独特の発音で声をかけてくる。焼き小籠包の文字に惹かれ購入。彼氏の方はフカヒレまんを買っている。もう焼いてあるらしくすぐ出てきた。白と緑のこんがりと焼き目のついた小籠包が二つずつ入っている。思っていたより大きい。小籠包はそのまま齧ると肉汁が噴出し火傷する、とネットで予習済みの私はひとまず箸で穴を開ける。焼き小籠包はその限りではないようで、ふわりといい香りがするだけだった。ふーふーと息を吹きかけてから齧ると肉汁がじゅわりと口に流れ込んでくる。めちゃくちゃ美味い。やや分厚めのもちもちとした皮にたっぷりの肉汁が溢れてきて黒酢によく合う。肉は粗挽きのものを使っているのだろうか、とろっとした肉汁と一緒になって美味い。たまらずもう一口齧るとエビが入っていた。大きなエビを切って使っているのだろう。小さいのが丸々入っているのも美味いが、大きなエビを切ったものもこれはこれで旨いのだ。あっという間に食べ切ってしまった。結構食べ応えがあったのでお腹の余裕はギリギリだ。

気持ち的にはまだまだ食べ足りないのだが胃は限界。前日楽しみで寝れなかった私の貧弱体力が限界というのもあり、帰ることになった。お土産にしっかり甘栗を買って。ここ最近食べ物を美味しいと思えなくてそれに対して疑問も抱かなくなっていた。彼氏は少しずつ食が細くなっていく私が心配だったんだろう。今日のご飯はとてもおいしかった。明日もそうだといい。

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