今日も食らって生きていく
朔月
中華街と食の喜び(上)
寒さもだいぶ和らいだとはいえ、まだまだ寒い3月末。観光地として有名な中華街のはじまりの方にある屋台に早々に捕まり買ったフカヒレスープを啜る。少しとろみのあるスープをおこげと共に口に流し込むと出汁の旨みと細切りの筍が口の中を占拠する。思わず長く息を吐くと、かいじゅうのような白い水蒸気が顔まわりを舞う。
今日の中華街デートは精神的にダメになるとすぐ食の楽しさを見失う私のために彼氏が計画したものだった。横浜中華街食い倒れ食べ歩きツアーである。ここ最近ストレスが多過ぎて食う楽しみを忘れた私こと食の番人ははるばる神奈川までやってきた。私の準備は万端。胃が縮まないようにやや少なめの朝ごはんを食べ、お腹の緩い服を着用、観光案内所でマップを事前入手、ネットで事前情報を集める完璧っぷりである。
彼氏の方を伺いみると私にはやや辛かったエビチリ串を美味しく食べ終わったところだった。私の方もスープに向き直る。カップの底の方を攫うと干し椎茸や筍、つるつるした春雨のようなものが顔を出す。まずは好物の干し椎茸を口に含む。より濃くなった出汁と共にふわりと香辛料の香りが強くなった。なんの香辛料かはわからないがクセも少なく上手くまとまった味のためとても美味しい。椎茸の食感を楽しみつつおこげも口に入れるとスープを吸ったおこげがじゅわりと米の甘みと出汁を出す。腹ペコの私の胃に食べ応えもあるあたたかいスープは大正解だったらしい。
テレビに出たらしいこの店は若者で賑わっている。某アイドルが出たらしくその写真までご丁寧に飾ってある。イマドキっ子と分類されるような年齢のくせにイマドキっ子が苦手なのでいちいちビクビクしてしまう。
「食べ終わった?」
彼氏の声で我に帰る。最後の一口を椀から直接飲みほし、ゴミを捨てる。まだまだ食い倒れデートは始まったばかりである。
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