8. 「カウンセリング」
それから十分ほどが経過した。一時騒然としたセンターも、今ではすっかりと落ち着きを取り戻していた。僕は少し鼓動が早まるのを感じながら、自分の番号が呼ばれるのを待っていた。
しばらくしてようやく、僕の番号が呼ばれた。右側の廊下から先ほどの中年男性が現れ、廊下を案内される。後ろについて歩く。リノリウムの床がコツコツと乾いた音を鳴らす。しばらく進むとある一室へと案内され、そこで待つように男に言われた。
部屋の中は、丸テーブルが一つと椅子が二つある以外には何もない、簡素なつくりになっていた。しばらく待っていると扉が開き、男が入ってきた。手にはバインダーを持っている。
どうやら彼はカウンセラーらしい。念押しで自殺の意思が確かなものであるかどうかを確認するのだ。男はバインダーを見ながら、定型文を読み上げるようにして僕にいくつかの質問を投げかけた。僕が答えると、男はあー、とかえー、とか言いながらせっせとボールペンを動かした。
「えー、特に問題はないようですね。先ほどの方は大変だったんですが……おっと失礼。それでは、十分ほどまた待って頂いた後に、別の部屋へと案内させて頂きます。えー、そこにはベッドと机があり、机には睡眠薬と水の入ったカップがおいてあるはずです。えーなので、まず、部屋に入ったらその薬を飲んでください。そして靴を脱ぎ、ベッドに横になってください。あー、だいたい三十分もすれば眠りに落ちるはずです。万が一、急遽自殺をやめたくなった場合は、三十分以内にベッド脇にある非常ボタンを押してください。非常ボタンが押されなかった場合は自殺の意思があるとみなされ、二度と目覚めることはありません。大丈夫ですか?」
男は早口で言った。
「はい、わかりました。問題ありません」
男は僕の返事を聞くと、席を外した。
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