5. 「異邦人に対する畏怖」

 今、遮るものの無くなった太陽の陽射しは、鋭く僕のことを突き刺した。額にはじんわりと汗が滲み、まぶしさで思わず目を細めた。僕はそれで、カミュの異邦人に出てくるムルソーのことを思った。彼に対するある種畏怖のような念が僕の中で膨らみ、それがいっそう自分をみじめな気分に追いやった。

 僅かな吐き気が込み上げた。しかし楽観主義者であった僕は、少しすると気を取り直して、目的地を目指した。


 乱立するビルの隙間を縫って少し歩いた。ここでは太陽の光はビルに遮られ、辺り一帯は薄暗くひんやりとしていた。もうすっかり先の音楽も聞こえなくなっていた。     隙間風が吹き抜けると僕は少し身震いをした。捨てられた空き缶がカラカラと音を鳴らしながら転がり、僕を後ろから追い抜いた。そして空き缶の転がっていった先に、僕の目的地が見えた。 


【名古屋市立自殺ほう助センター】

 眼前に黒く聳え立つその建物は、周囲に近寄りがたい威圧感を醸し出しているように見えた。まるでこの建物の周りだけ重力が強くなったような圧迫感を僕は感じた。全国各県に設けられたこの施設は、自殺希望者に対して安楽死を提供する。

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