第7話 一緒にご飯を食べるのは私。アーンをするのも私。責任をとってもらうのも私。


「ねぇ緑川くん今日の昼、どう?」


 4時間目が終わり、俺が用具をしまっていると隣の席の一ノ瀬さんが弁当を片手にそんなことを尋ねてきた。


「どうってなにがです?」

「いや、昨日あの後どうなったとか色々話したいことあるし、単純に緑川くんのこともっと知りたいからね。あっ、迷惑だったら全然いいからね?」

「俺は大丈夫ですけど...」

「じゃあ、決まりだね!」


 俺の返事を聞いた一ノ瀬さんはパチンっと指を鳴らすと、ニッと笑ってそう口にした。


「じゃあ、早速前失礼するね」

「あっ、はい」


 一ノ瀬さんは立ち上がると自分の椅子を俺の席の前へと置き、弁当と水筒を俺の机に並べた。


「なんか、緑川くんとこうやって向かい合って食べるのって変な感じするね。あっ、折角だからアーンとかする?」

「絶対にやめ——」

「ダメ」

「「わっ!?」」


 俺が声を上げる前にどこからかヌッと現れた天王寺さんが、そんなことを言うので俺と一ノ瀬さんは2人してびっくりする。なんか既視感デジャブだ。


「詩織お姉様!? 一体どうしてここに??」


 一ノ瀬さんは立ち上がると慌てた様子でそんなことを天王寺さんに尋ねる。ちなみに何故かハアハアと息を荒くしていたが...忘れることにしよう。

 世の中には知らなくていい事だってあるのだ。


「悪いけど、彼と一緒にご飯を食べるのは私。ってことで緑川くん、貰っていくけどいい?」


 そして天王寺さんも天王寺さんで、一ノ瀬さんの問いかけを無視して一方的にそう告げる。


「詩織お姉様の頼みとあらば構いませんよ。全然、持ってちゃってください」


 対する一ノ瀬さんは天王寺さんの対応に一切めげた様子もなく、なんでもないようにそんなことを言う。いや、俺の意思は!? 


「あと、申し訳ないけど彼にはこれ以上ちょっかいかけないでくれない? 私のなの」

「あっ、それはいくら詩織お姉様といえど無理です。私の関わる人は私が決めるので」

「......そう。じゃあ、とりあえず緑川くんは貰っていくね」

「それはどうぞー」


 一瞬ピリついた空気が流れたが、天王寺さんが折れてそう口にしたことで場は収まったのだった。

 良かった。


 いや、俺の意思は?


 *


「なんか、私達ずっとここだね」

「だって、他の人に見つからないような場所ってここしかないですし」


 朝と同じように最早お馴染みになりつつある空き教室に足を運んでいた。


「ふふっ、緑川くんもすっかりこの学校のことが分かって来た」

「いや、分かったのここだけですけどね。人が来ないの便利すぎますし」

「うん。だからみんなには教えてない。私、基本的に1人がいいし」


 俺の言葉に天王寺さんは少し嬉しそうにウンウンと相槌をうつ。


「じゃあ、そろそろご飯食べよう。時間なくなっちゃう」

「そうですね」


 話の区切りがついたところで天王寺さんはそう言うと、弁当箱をあけた。そして俺もそれに続くように箸を取り出し弁当箱をあけた。


「「いただきます」」


 そして、俺と天王寺さんは向かい合うとお互いに手を合わせるのだった。


 *


「あっ、そう言えばさっきあーんがどうたらって話してた」

「あー、ありましたね」


 食べ始めて少しした頃、突然天王寺さんが思い出したかのようにそんなことを口にした。

 うん、なんかもう既に嫌な予感するな。


「だから代わりに私がするアーン」


 ほらね? それに対する俺の返事は勿論。


「いや、大丈夫です」

「むぅ」


 大体あれは一ノ瀬さんが勝手に口にしたことであり、それに加えて彼女も本気で言ったわけではなく俺を揶揄う為の冗談だろう。


「いや、でも緑川くんとご飯を食べるのが私なら、緑川くんにアーンをするのも私。だから、アーンするのはおかしいことじゃない」

「それどんな理論ですか!?」


 天王寺さんの口から飛び出た意味の分からないトンデモ理論に思わず、俺は声を上げる。


「ついでに責任をとって貰うのも私。分かったら大人しく口を開けて?」

「だからその責任ってなに!? ずっと気になって仕方ないんですが」

「言わない」


 俺が尋ねるとアーンを一旦止め、顔をプイッとそっぽに向ける天王寺さん。


「あっ、というか一ノ瀬さんから聞いたんですけど天王寺さんってテスト学年1位で、体力テストも女子で1位なんでよね? 流石に凄すぎません?」


 そこでアーンから話題を逸らすべく、俺は休み時間になる度に一ノ瀬さんから聞かされた天王寺さん伝説について聞いてみることにした。


「あっ...うん。そうだけど」


 しかし、天王寺さんはあまり楽しくなさそうた。凄いことなのに、いや、むしろ言われ過ぎて飽きてしまっていたりするのだろうか?


「いやぁ、本当に天王寺さんって努力家なんですね。尊敬です。なんというか、とても可愛くもありますけどカッコいいですよね」

「っ!?」


 しかし、続く俺の言葉にそれまでつまらなそうにしていた天王寺さんが酷く動揺したように、体を揺らした。


「わ、私のどこが努力家なの? なんでそんなことが分かるの?」


 すると少しして天王寺さんが先程までとは違い真面目な顔でそんなことを尋ねてきた。


「いや、だって昨日と今日俺と話す為だけに凄い労力を費やしてたじゃないですか。まぁ、その労力を向ける方向は変でしたけど。でも、それだけで想像つきますよ、天王寺さんが普段からどんな人なのかって。そんな人が勉強とスポーツ1位なんですから。凄い努力をしたんだろうなぁと」


 なので、そんな天王寺に応えるべく俺も真面目に答えると何故か天王寺さんの瞳から涙が溢れた...ように見えた。


「っ。 ごめん、私用事」

「えっ、天王寺さん?」


 しかし、俺がそのことを尋ねる間もなく天王寺さんは顔を両手でおさえると、そう言い残し走ってどこかへ行ってしまうのだった。 もしかして、俺何かまずいことでも言ったのか?


 そして1人残された俺は不安に暮れていたがとあることに気がつき、違う不安にかられることになった。


「天王寺さん、お弁当箱置いてちゃったけどいいのか?」



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 次回「私の家、上がってく?」


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