五通目 「過去からの手紙」
可愛い千代丸
いえ いまは菊池 四郎 武光殿でしたね
武光殿は今 どちらにおいでなのですか
もう元服を済ませ 童ではなくなったお前様が
今さら神隠しに遭ったとは 母はどうしても思えぬのです
人攫いに遭ったという者もおりますが
僅か十四とは言え 鬼神のごとく剣も弓も達者なお前様が
人に遅れをとるはずがありませぬ
殿様 叔父上様 跡目様はじめ ご家臣の多くも大友氏に討たれたと聞きました
でもいくら初陣とはいえ お前様が討たれるはずはない
お前様には不動明王様と 観世音菩薩様のご加護がついています
そう母は信じております
なにか事情があってのことならば 母は全てを飲み込みましょう
なにゆえ姿を見せぬのか 言えぬ理由わけなら聞きますまい
しかし今こそ 殿様の跡を継ぎ
お前様が お家のために立つときではありませぬか
この文を かの地に詳しい間者しのびに託します
文のひとつ 便りのひとつでよいのです
お前様の無事を 母に知らせてくださいませ
さすればこの母が 万の援軍を差し向けましょう
妾腹の子と 軽んじられた日々もここまで
武光殿 いまこそ お前様の時なのです
殿様、跡目様の無念をはらすのです
いま菊池のお家は お前様の肩にかかっているのですよ
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