三日坊主 4/4
三日坊主に連れてこられた廃ビル。そこで拘束されていた女性は
「
(汗が垂れる。
「そんなにママのこと好き??」
いつのまにか目の前に立つ少女。無邪気な声でそう質問し、こう続けた。
「一つ、幼稚園のお泊り会に参加させてもらえなかった。大好きなお友達一緒に遊びたかったのに、ママに「ダメ」って言われちゃったんだね。
二つ、親友と絶交させられた。小学生の頃のお友達、ちょっとヤンチャだけど、友達思いのいいひとだね。でもママは「遊ぶお友達を選びなさい」って言って絶交することになったんだね。
三つ、行きたい大学に行けなかった。おにーさんって、本当は英語が好きなんだ!でも、ママが決めた大学じゃないと、学費も出さない仕送りもなしって言われちゃっただね。
四つ、就職先を」
「もうやめてくれ!!わかった、わかったからやめてくれ。」
「あはっ!仕返しできて、幸せにもなれるなんて、おっとく~」
心からの笑顔を見せる少女に、
「さぁ、
肩に乗った三日坊主は
目隠しを取られた母親と目があう。彼女は困惑しているだろう。廃ビルの一室、白いワンピースの少女と愛する息子、床には凶器が並んでいる。当然、母親は息子に助けを求めるように視線を送る。
(そうだ!加減すればいいんだ!13の道具…例えばナイフなら、軽く指先を切るだけでも『使った』ことになるじゃないか!ハンマーでも、軽く小突くだけなら……)
「あ、先にこの本を読んでね。道具の使い方には指定があるから。」
(し、指定……!?)
少女に手渡された一冊の自由帳。名前の欄には『もちづき めぐる』と書かれている。恐る恐る開くと、それはクレヨンで描かれたおぞましい拷問説明書であった。
「例えば、この電動ドライバーなら両肩に穴を空けないとダメェ~。」
視界がぐるぐると回る、クレヨンで描かれた絵を自分と母親に当てはめた時、
「ゲッ…ゲホッ……。むり、無理だ三日坊主!俺にはできない!母さんを解放してくれ!!」
「ならば、
「相応の……罰。」
(この状況に値する罰…?それじゃあ俺は…俺が…)
「俺が不幸になっちまうじゃねぇかよーー!!!」
「んんんーーーっ!!んっ!!!んんんっ!!」
涙を流し
「ああーっ!!ごめん、母さん!ごめん、ごめん母さん!!」
痛む母を見て
「
三日坊主の言葉が脳を支配する。
「俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。母さんは悪者。母さんは悪者。母さんは悪者!!そうだ!母さんの門限が厳しすぎるせいで、俺には友達ができなかった!高校生で彼女ができそうなときも母さんに邪魔された!!母さんは悪者だっ!!これは正当な仕返しである!!」
レンチで右膝を殴る。メキキッという音が響く。母の声はもう聞こえなかった。次にノコギリを手に取って、そこからの記憶は残っていない。
意識を取り戻したのは夕方。全身から血を流し、ぐったりと動かなくなった母親を見て、三日坊主はこう言った。
「これより72時間後、12月22日の16時31分12秒まで母に仕返しをした罪に耐えよ。」
(これは、悪魔の道具だ。)
家に帰ると、病院から電話があり、母は事故死したことになっていた。葬儀の準備をしていたらあっという間に三日間なんて過ぎ去った。
三日坊主は白い少女に返すことにした。この人形の顔を見るたびに、母親の顔が浮かぶ。
俺はこれから、幸せになるんだ。ならねば母の死は…。
そして15年の月日が経ったある日の夜。
「はぁっ!はぁ…、はぁ…はっ、ああぁ…」
高級住宅地の一角。二階建て駐車場付きの立派な一軒家。ここが現在の
「あなた、大丈夫?ここ最近眠れていないみたいだけど…。」
「ああ、大丈夫だ。仕事が忙しくてね…。少し夜風に当たってくるよ。」
美しい彼女は美しい妻となり、娘と息子も産まれた。今では有名私立の生徒であり、学業優秀、品行方正。自慢の子供たちだ。
肌寒い風が頬に当たる。冬になると、いつも母親を思い出していた。自らの手で母を殺めてから15年。その手にはいまだに13種類の凶器の感覚が残っていた。
「おじさんっ!」
「……ははは。やっぱり君は人間じゃないのかな?」
そこには白いワンピースを着た少女が立っていた。あれから15年経っているはずだが、娘と変わらない年頃の少女。
「なぁお嬢ちゃん。もう一度だけ、三日坊主を貸してくれないか?」
「いいよっ!」
「三日坊主、俺を今の記憶をもったまま過去に戻してくれないか?可能ならば母さんを殺す前に…。もう、もう限界なんだ。毎日母さんに怒られるのは、辛いんだ。」
「過去に戻りたいのであれば、『無の世界』を三日間我慢せよ。」
「無の…世界?」
「
「なんだそれ…。どうやってそんな場所を…。」
「あるよねっ?誰もいなくて、三日くらいならすごせそうなところ。」
少女が笑顔でそう言った。正直、その場所に心当たりがあった。そこは歩いて10分もかからない場所だ。
「俺の実家…。母さんが死んでからも、なんとなくそのままにしておいたんだ。」
実家に入る。定期清掃の業者が入っているので、中はきれいだ。カーテンも扉も全て閉め切り、母と何度も食事をしたリビングに座る。
待ち受けは笑顔の家族写真。母の死を代償に手に入れた歪んだ幸せだ。この『我慢』が成功すれば、もう彼らと会うことは叶わないかもしれない。
「あいわかった。」
三日坊主の目がぎょろりと開く。
「これより72時間後の12月9日0時19分56秒まで『無の世界』で過ごしてもらう。」
(何も考えるな。ボーっとしていれば三日なんてすぐに経つさ…。)
しかし、三日坊主に願って手に入れた
(母さん…)
真っ先に浮かぶのは母を殺した自責の念。何度も何度も「本当は事故死で俺は殺していない」と自分に言い聞かせようとした。しかし何年たっても母の最期の顔が忘れられない。
(親になってみてわかる。俺も過保護になりそうだ。)
次に浮かぶのは家族の顔だった。
(もし俺が妻や娘、息子に殺さるとなったら、どんな気持ちになるだろうか。)
考えを巡らせ巡らせ巡らせ巡らせ…。何日経っただろうか。
(俺は…、このまま生きていていいのだろうか?)
ガリッ。
「
ない!ない!
(ない!母さんごめん。ない!このまま搔きむしれば…ない!育てた覚えはない!きっと……。)
ボリッ…。ガリッ…。
ぱっ
脳天を貫くような光が目に入る。五感が戻り、世界の情報が強烈に入ってくる。目の前には三日坊主と白ワンピースの少女。
「
目をつむる三日坊主。すると、
「これで…やり直せるんだ母さん…ごめんよ。」
「
「え?」
三日坊主が微笑み、
終
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