三日坊主 1/4
「男の子なら
蒸しあがる夏。コンクリートに反射した直射日光が幼児を熱中症にしたなんていうニュースが報道されるこの季節。男は母親の言葉を思い出しながら、営業先を回っていた。
(暑い…。大人でも厳しいよ。)
男の名前は
(でも新規開拓よりマシだ…よな?)
うだるような暑さの中での営業。午後の営業はあと三件回れば終わる。
(さすがに
(少し我慢すれば、お金も早くたまる。)
営業を終えて会社に帰る。
「おい
「ありがとうございます!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
「声ちっせぇよ!!嘘の感謝が見え見えだぞ、望月ぃ!!」
大声で叫ばされる
(でも、新卒で内定もらえたのはこの会社だけ。俺の市場価値なんてそんなもんなんだ。ここで頑張ればきっといいことある。今は我慢だ、我慢!)
仕事を終え、最寄り駅に到着。スマホの時計は23時を示していた。
(今日も残業しちゃったな…。でも、終電までに帰られてよかった。)
「おにーさんっ。」
帰り道、幼い少女の声が聞こえ、足を止める。視線を下に持っていくと、そこには白いワンピースを着た小学生くらいの女の子が立っていた。
「えっ、あっ。どうしたんだいこんな時間に!?おうちの人はどこかな?ま、迷子かな?」
慣れない子供にたどたどしい口調になる
「おにいさんはたくさん『我慢』してるんだね。えらいえらいだね。あたしもよく『おかしは我慢しなさい』っておこられちゃう。でも、我慢きらーい。我慢しても良いことなにもないんだもん。…もしも、我慢するだけで、良いことが起きたらさいこうじゃない?」
「君…何を?」
「はいっこれ!おにいさんにあげちゃいますっ!」
少女から手渡されたのは手のひらサイズの人形。
「この子の名前は『
少女は人形を無理やり
(つ、疲れているんだ。きっとそうだ。)
「ただいまー。」
「おかえり
母親は小さな子供に話しかけるような甘ったるい声で
「大丈夫だよ、みんないい人。俺が仕事の効率悪いだけだから。」
「そう?それならいいんだけど…。いい?何かいやなことがあったらすぐに相談するのよ。そーだ、
「やめてよ!俺は大丈夫だよ、母さん。……風呂、入ってくる。」
(母さんはいわゆる「過保護」の部類に入るのだろう。友達の話を聞いても、自分の母親のような行動はしないらしい。…でもこうやって毎日風呂も飯も用意してくれている。感謝しないと…。少しうざったいくらい我慢だ、我慢)
風呂から上がると、母親は料理を温めなおし終わっており、机にはほかほかのおいしそうなご飯が並んでいた。
「そんな感じで、本当にいい人ばっかりなんだ。帰りが遅いのも、早く一人前になりたいからで…。なぁ母さん。話は変わるんだけどさ。」
「なぁに?
「そろそろ一人暮らし始めたいなって。大学の頃もずっと実家暮らしだったし、門限があるのなんてウチくらいだよ。俺も自立の準備を…」
「そんなこと…!許せるわけないでしょ!!
先ほどまでの甘ったるい声は姿を消し、キーキーとつんざくような声で
「わかった!!わかったよ母さん…。変なこと言ってごめん」
「……一人暮らしで自由に過ごしたいのはわかるわ。でも我慢しなさい。それがあなたのためになるんだから。」
ヒステリックに怒る母親は、落ち着きを取り戻しお茶をすする。テレビの音と、
(一言謝ればいつも通りの母さんに戻る。母さんはかわいそうな人だ…。母さんの言うことも全部正論だ。我慢、我慢すればいいんだ。)
「は~~、ああ言われたけどやっぱり一人暮らししたいなぁ。正直母さんと毎日一緒にいるのもしんどいし…。」
「母親から一人暮らしの許可を得たいならば、『間食』を三日間我慢せよ」
「え…?」
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