夢、買い取ります ⑤本当の夢
駅のホームで
(自慢じゃないが、うちのマンションのセキュリティは日本最高峰!半端に逃げるより、家にいたほうがいい!何かあれば警備会社が動くはず…!)
歩夢はタクシーを捕まえ、大急ぎで自宅へ向かった。マンションにつくと玄関には黒いスーツ姿の集団がいる。
大柄の男ばかりの中、一人見覚えのある細身の男がいた。指示役のその男は、間違いなく夢買取屋の店員だった。
(もう…もう来てた!!)
歩夢は運転席に手をかけて、運転手に指示を出す。
「運転手さん!やっぱり目的地変更します!えと、とりあえず新幹線に乗れる駅まで!」
再び移動を始めるタクシー。大柄な男たちはこっちに気が付いていない。車内の歩夢は夢買取屋という組織の大きさにおびえていた。
(たかだか俺の夢にあんなに人を集めやがって!俺も現太郎のように廃人になるのか?田舎に帰りたくなんてない!俺はきらびやかな生活をするんだ!イケてる男になるんだ!!)
タクシーは信号もない場所でキキッという音と共に停車する。もう着いたのか?そう疑問に思った歩夢は顔を上げるが、そこに駅などない。ただのだだっ広い空き地だ。
「あの…?運転手さん?俺、新幹線に乗りたくて…。」
運転手は歩夢と目を合わせず、申し訳なさそうな声で話し始める。
「兄ちゃん、悪いねぇ。本当はこういうのよくないんだろうけど、俺も雇われ人だからねぇ。兄ちゃんがなにしたか知らんけど、大事にな…。」
到着した空き地には夢買取屋の店員とSPのように黒いスーツを着た屈強な男たちがいた。タクシーの扉は自動で開き、歩夢は屈強な男たちに無理やり下車させられる。
「フーッ…。困りますよ歩夢様。契約は守っていただかないと。」
冷や汗をかきながらも、丁寧な口調を崩さない店員。
「なんで…。タクシーをここに?」
「あなたの夢は今や富豪の中でも大人気商品。所持していることがステータスになっているのです。そんな重要な人が逃げて、夢が手に入らないとなったら焦る方もいるのですよ。例えば、大手タクシー会社のオーナー…とかね。」
夢買取屋の店員はタクシー運転手のほうを一瞥する。
「ああ、ああああ。」
「さ、行きましょう。なんて顔をしているのですか、これからあなたは莫大な富を手にするのですよ。あのマンションでの暮らしは
夢買取屋の車に無理やり乗せられ、小汚い雑居ビルにやってくる。エレベーターに乗り、白すぎる部屋の白い手術台に乗る。
「や、やめてくれっ!!俺は、俺には夢があるんだっ!!」
抵抗空しく、マスクをつけられた歩夢はすぐに意識を失った。
雑居ビル近くの公園。
「ふー…。」
夕暮れ時、歩夢はベンチに座り、手をグーパーグーパーする。結論から言えば、彼は廃人になってもいないし、田舎に帰りたい気分にもなっていない。何も失っていない。むしろ大金を手に入れた。アタッシュケースにパンパンに入っている。
相変わらず競馬に行きたいし、高級車の助手席に女を乗せて走りたいし、ハイブランドの服を着ている自分は最高にかっこいいと思う。
欲望は何も変わらない。
そう欲望は変わっていない。
(じゃあ夢は?)
歩夢は思考に
現太郎は確かな夢を持っていた。その夢を実現するための手段として金を欲し、夢を売って金を手に入れた。
俺だって夢を持っていた。金があれば全て片付く夢だ。みんなに人気のブランド品を買って、みんなが憧れる車に乗って、みんなが住みたがる家に住んだ。金を得るという目的の元、夢を売って目的を果たした。この右手に持っているアタッシュケースが俺の夢なんだ。
「みんなって…はは…誰だよ。俺は何が欲しい?」
「世界の難民は一億人を超えました!日本人の人口と大差ありません!今も増え続けているのです!なんの罪もない人が、不当に苦しんでいます!!私たちは地球の家族です!今こそ助け合いましょう!!」
無謀な夢を語る青年が街頭募金に精を出す。青年はずいぶんと日焼けしていた。どうやら現地で支援を行えたようで、募金を呼びかけるための看板には現地に行った写真が掲示されている。青年と仲間らしきアジア人、現地人らしき人が集合している写真だ。
歩夢はアタッシュケースから金を出そうとしてやめ、青年に近づいてこう言った。
「俺も仲間に入れてくれないか?」
終
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