夢、買い取ります ③夢の夢

歩夢は夢買取屋のエレベーターボタンを連打する。

(早く来い!早く来い!!)

 歩夢は安心を欲しがった。メールに書いてあった高額買取が真実であるのか、本当に金が受け取れるのか、今すぐに確かめたかった。エレベーターから降り、店の扉を乱暴に開ける。


 扉の先には昨日と同じ店員。

「おや、歩夢様。さっそくご来店いただけたのですね。」


「早く…!結晶化、金!早く!」


 歩夢は白いテーブルを両手でバンと叩き、店員に迫る。


「おっと…。落ち着いてください歩夢様。夢の結晶化ですね。どうぞ、奥の部屋へ。」


 店員は昨日と同じように歩夢を奥の部屋へ案内した。歩夢は自ら手術台に寝転がる。店員は歩夢の頭にヘルメット型の機器を取りつけ、作業を始める。


「それでは、メールでお送りした通り、8つの夢に買い手がつきましたので結晶化を始めます。結晶化した夢は二度と見れませんがよろしいですね?」


「ああ、もちろんだ。早くやってくれ。」


 店員は「それでは」と言って歩夢にマスクを取り付ける。猛烈な眠気に襲われた歩夢はあっという間に入眠する。


 歩夢は手術台の上で目を覚ました。


(夢を見ていないからか?一瞬目を閉じただけだったような…。)


 周りを見渡すと誰もいない。歩夢は頭についた機器を外し、BAKUの上にそっと置いた。


 手術台から降りる。扉を開け、手前の部屋に戻ると白い椅子には店員が座っていた。店員はこちらに視線を向け、立ち上がる。


「これは歩夢様、お目覚めになられましたか。こちら歩夢様の夢の結晶になります。」


 白い机の上には赤や緑、青など様々ない色の透明な石ころが並ぶ。サイズは小指の爪ほどしかない。これに夢が詰まってるのかと思うと不思議な話だ。


「こちら夢の買取価格、合計213万円です。」


 店員から手渡されたずしりと重い封筒。見たことのない金の厚み。震える手で恐る恐る中身を確認する。


「すげぇ…本当に入ってる。全部万札だ…!!」


 歩夢は味わったことのない高揚感を覚えた。実質的には何もしていない。苦しい労働や、競馬予想を当てたわけでもないのに手に入る大金。背筋がゾクゾクとした。


「それが歩夢様の夢の価値でございます。取引ありがとうございました。また夢が売れましたらお知らせします。」


 歩夢は手に持った大金を見ながら決意する。


「すみません、昨日言ってた全部の夢を売りに出すための予約って、今できますか?」


 店員は歩夢の提案に笑みを浮かべ、カレンダーを確認する。


「もちろんです。ああ、ちょうど今日が空いてますね。今日以降ですと、一か月後になります。」


「きょ、今日で!もう、すぐに売りに出してください!!」


「左様でございますか。それではもう一度、奥の部屋へお願いします。」


 歩夢は昨日と同じ作業を行い、退店する。


「今日はありがとうございました!本当に助かります!!」


 歩夢は何度も深々と礼をしながらエレベーターに乗る。外に出るともう夕方だった。歩夢が大金を握りしめ、向かった先は百貨店。いつもは地下のフードコートしか利用しないが、今日は違う。中層にあるブランド店に入り、気になっていたジャケットやカバン、アクセサリーを買い漁った。


「お似合いですよお客様。」


 次々と着替え、そのすべてを褒めちぎる店員。歩夢の顔に笑みは絶えなかった。


「そうか?そうだよな!俺には高級な服が似合うんだ!よし、一式全部買うぞ!!」


 購入した服に着替え、勇み足のままエレベーターに乗る。向かうのは上層だ。


「今日はいつものファーストフードなんかじゃない。高級うなぎを食べてやる!」


 上層には価格相場が高めに設定された飲食店がずらりと並ぶ。歩夢はこれらの店の殆どを利用したことはないが、どんな店があるのかだけは、誰より把握していた。

 鰻屋に入り、見慣れないメニューを手に注文する。少し待たされるが、それも嬉しかった。ようやくやってきた鰻を急いでほおばる。


「美味い…!こんなに美味いものなのか!」


 歩夢は感動的な食事を終え、帰路につくと、街に響く大きな声に足を止めた。


「世界には飢餓で苦しむ子供がたくさんいます!皆様のお気持ちをどうか!」


 昨日の男だ。今日もよく響く声で募金活動をしている。歩夢は男の前に立ち、財布から一万円札を取り出した。


「これ、入れておくから。活動頑張って。」


「こ、こんなにいいんですか!?ありがとうございます!!」


 歩夢は感謝する募金男に片手を振って返す。歩夢は最高に気分が良かった。すべてを手に入れたような万能感に酔いしれた。


(やっぱり金だ!金があればほしいものが全て手に入る!)


「夢、サイコー!!」

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