第77話ニンジン畑で
ラビィは師匠のニンジン畑にいて、働いていた。
裁判が終わってあれから半月、無罪判決はもらったものの、気球の安全運転義務違反で罰金を課せられ、ラビィは腰を落ち着けて働き、それを支払うことにした。星磨きのアルバイトはお休み、磨いてからまだ少ししかたっていないから。
ラビィはふうと息をつく。ちょっと一休み、麦わら帽子をぬいで汗をぬぐう。
ニンジン畑を見渡してみる。霞のように生い茂るニンジンの葉が一望できる。
「疲れたか。どれ、わしも腰が痛くなってきた。小休止するか。」
一緒に畑にでている師匠が声をかける。
「はい。」
畑仕事は罰金のためだったが、嫌々ではない。旅をするのも楽しいけれど、こうして植物を育てて成長を見、収穫を喜ぶのも楽しい。
それに・・・、
畑の端のイスに座って休んでいると、向こうからラビィたちを呼ぶ声が聞こえた。
見ると、女の子がバスケットを持ってかけてくる。
「そろそろお昼でしょ。休んでいる頃だと思った。」
女の子は近くまで来ると笑顔でそう言い、バスケットを軽く持ち上げた。
・・・ニンジン畑仕事はラビィに好ましい状況をひとつ与えてくれていた。この女の子は師匠の孫のミィだ。ラビィの幼なじみで初恋の女の子。畑仕事をする師匠とラビィに毎日作りたてのランチを届けてくれる。優しい女の子だ。
「ありがとう。」
ミィがお茶とサンドイッチを差し出したのをラビィは受け取る。
「ラビィ、いっぱい食べて罰金返すためにお仕事頑張ってね。それから、」
ミィは小声になる。
「その後、いつか旅でまわったところにつれていってくれるんでしょう。楽しみにしてるね。」
ミィの首に、淡いワインピンクのビンテージガラスのネックレスがひらりとゆれる。
ニンジン畑を手伝うことになって久しぶりに再会したミィに旅のことを話して盛り上がり、いつかいきたいと言うので。いつか一緒に旅行に行く約束をしたのだ。約束に沈没船散策で気に入ってもらってきたシャンデリアのガラス片をネックレスにしてプレゼントした。ミィのリボンの色とよく合うと思った。
「きっとね。」ラビィも小声で返した。
「これを食べたらもうひと頑張りするぞ、ラビィ。」
「はい。」
ミィがくすくす笑う。
「おじいちゃん、お手柔らかにね。」
「はっはっは、覚悟せい。」
「なんの、頑張るよ。」
ラビィが親指をたててみせる。
「まあ。」
ミィが更に笑い。
師匠とラビィも笑った。
笑い声がニンジン畑に響いた。
手錠うさぎラビィ 水上透明 @tohruakira_minakami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます