第73話師匠のかつ

「それなら、師匠さんにあいさつに行かなくちゃ。」

ラビィが旅の話しをしていて、旅に出る前に師匠にあいさつしたというと、モカは、帰ってきた今日もあいさつに行くべきだと言うのだ。

ラビィは気が進まなかった。

なぜなら出発前、旅に反対されてかつをくらったからだった。

それでも、しばらくぶりだし、お世話になっているひとだから、やはりラビィはあいさつに行くことにした。

師匠は、ニンジン畑の師匠だ。ニンジン畑作りを一から教えてくれた。恩人であることに違いない。

ラビィは思い立ったら走って師匠の家まで行った。

また怒られるのを覚悟で、家のドアをノックした。

「ほうい。」

ガチャリ、すぐに出てきた師匠は、ひげそり中だった。

「おうなんだ、ラビィか。」

存外軽い再会に、かみなりをくらうかと思っていたラビィは拍子抜けした。

「あ、はい。お久しぶりです。」

「なんだ本当にしばらくぶりじゃないか。そんなところに突っ立ってないで、まあ入れ。」

ラビィはお言葉に甘えて師匠の家に入った。師匠の家は変わっていない、簡素な作りの家、簡素で必要なだけの家具。

タンポポの根っこ茶の香り。

「して、どうした。腕にそんなものぶら下げて帰ってきて。体もがたがたのつぎはぎじゃないか。」

「色々ありまして・・・。」

ラビィは師匠にも、旅のあらましを話して聞かせた。

「なんと、警察につかまったと。なにをどうしても外れない手錠だと。」

ラビィは怒られるのではないかと思って身構えた。

「ふうむ、そんなものあってたまるか。わしがかつをくれてやる。」

ラビィがやっぱり、と思って、覚悟して目をつむる。

「そうら!」

師匠のかけ声が響く。

と、ともにラビィの体に衝撃も響いた。

けれど、その後、しんとした。

ラビィは恐る恐る目を開けてみる。

すると、そこには手錠にかつを入れて、その衝撃にしびれている師匠がいた。

ラビィはそんな師匠の姿を見るのは初めてだったので、思わずふきだして、

「師匠のかつでも壊れないんですね、この手錠。」と言った。

しばらくたって、やっとしびれがとれた師匠は、ラビィにタンポポ茶をごちそうしながら、そのラビィの全体をまじまじと見た。

「ひどい形だ。どうだ、均衡の町にでも行って、体をきちんと縫い直してもらったら。」「均衡の町。」

ラビィは思いはせる。

「小さい頃よくお使いに行ったろう。繕い物を頼みに。等しいことのうまい町だ。きっと今よりましに縫い直してもらえるだろうよ。」

師匠がショウガせんべいをつまむ。

「ふむ・・・。」

ラビィは自分の体を師匠と同じく、まじまじと見た。

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