第9話トゲなしサボテンの涙
それから1日はたった。ラビィはコンパスの方角なりに砂漠を進んでいた。ラビィののどはまた渇いていたけれども、なによりプリンセスのキスがラビィの気力を保たせていた。そうして砂漠に出て3日目、砂漠の夜、月夜の明かりをたよりに、息を切らしながら歩いていたときだった。なにやら音が聞こえた気がした。銃に手をやり身構えて耳をすましてみる。
すす、すす・・・。
確かに音が聞こえる。ラビィは音の方向に目をこらす。月明かりがあって良かった、その姿はラビィの目に見えた。
見えたのは一本の立木のような物、よくよく見るとサボテンだった。
サボテンがすすり泣きしている。
「どうしたの?」ラビィはサボテンのそばまで行った。
「ぎゃー!旅人!お願いお願い、痛めつけないで。」サボテンは三つの腕で体をかばう。「どうしたの、ぼくは君を痛めつけたりしないよ。」ラビィはぽんぽんとサボテンの肩らへんに手をやる。
「だってぼく、トゲなしのサボテンだから、通った旅人やらなんかは簡単にぼくを切ったりして、水分補給していくんだ。」
ラビィは手をやってからそれを聞いて気がついた。本当にトゲがないサボテンだ。それから体のあちこちに傷跡があった。
「本当は腕ももっとあったんだ。」
「痛かっただろうね。」ラビィは傷跡をなでてなぐさめた。
「き、君だってのどがかわいているんだろう。い、いいさ、いいさ、君もほかの旅人と同じさ。」サボテンは弱々しくあきらめ調子で言った。
「確かにぼくものどが渇いている。からからだ。」
サボテンがびくりとする。
「あのさ、だからその涙、飲ませてもらってもいい?」
ラビィの目に映るサボテンの涙はまるでオアシスの水だった。
サボテンは一瞬ぽかんとした。
それから思わず笑った。
「そんなこと言われるのは初めてだよ。それでいいの?」
「うん、ぜひ。」
ラビィはサボテンの目元に口をやって、涙を吸った。大粒の涙がどんどん口に流れてきて、ラビィののどは大いに潤った。
「はあ、ありがとう。水分をとってなくてひからびそうだったんだ。助かった。」
「こちらこそありがとう、傷つけないでくれて。これからは涙で水分補給はどうかって旅人に言ってみる。」サボテンがうれし泣きした。
「もったいないから涙はとっておきなよ。」ラビィはぽんぽんとサボテンの背中らへんをたたいて泣き止ませた。
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