第8話リトルポイズンフルーツ
ラビィは砂漠に倒れていた。どうしてこんなことになったかというと、果物屋に忠告されていた突風砂嵐にあったのだ。ラビィは旅をしているとはいえ砂漠越えははじめてだった。
甘く見ていた。
準備万端にした通常旅行用のバックはいとも簡単に突風にひきちぎられ、どこか彼方にとばされてしまった。唯一の救いは腕にしっかり巻き付けて飛ばされなかったコンパスだったが、目的地まではずっとまだまだだろう。ラビィは突風砂嵐が去って数時間。照りつける太陽と砂の熱気でひからびそうだった。のどはからからだ。ラビィはもうだめなのかと顔をあげる。
一帯オレンジ色の大砂漠。
そのとき、水のような物が前方に見えた気がした。
なんだ、蜃気楼か、ラビィはあきらめかけた。でもその蜃気楼になにやら生えている物があるように見えた。ラビィははいずってそのもとまで行く。
膝丈くらいの幹だ。フルーツがなっている!フルーツが瑞々しそうにきらきら光っている。砂漠の蜃気楼のもとに生えるそのシロップのかかったようにきらきら光るくだものは、ラビィを魅了した。でも、この果物にはちょっとした幻覚作用があることを知っていた。「あと気をつけなきゃならないのが蜃気楼の幻覚果実。食べたら幻覚が起こる。」果物屋がもうひとつ忠告していたことを思い出した。けれどものどがからから極限のラビィはがまんができなかった。
こわごわしゃくりと一口くだものをかじった。すると声が聞こえてきた。
「お味はいかが?手錠うさぎさん」
本音を言うとみずみずしくて甘くって、とってもおいしかった。
「おいしい。」ラビィがそう答える。
「私を食べれば、空腹も悩みも心配しなくてよくなるようになりますよ。さあ食べて食べて。」
ラビィは二、三口立て続けに食べた。声が聞こえた以外は調子の悪いことなんて何もない。むしろふわふわした良い気分だった。
「そうですそうです。何も考えなくていいのです。今この幸せなひとときに夢中になって悪いことなんてなにもありません。」
もう一口かじった時、ラビィはふとなにか大切なことが頭から消えていく感覚を感じて食べる手を止めた。
「ぼくは今何か大切なことを・・・。」
「大切なことは自分の幸せです。忘れることで色々なしがらみから解放され、幸せになれるのです。食べて忘れてしまいなさい。さあ食べた。食べた。」
ラビィは食べる手を止めた。
「頭が空っぽになってしまったら、幸せすらもわからなくなってしまうんじゃない?それにそうだ。この手錠が外れない限りぼくに安息はないよ。ぼくは、なんだっけ、そうこの砂漠をこえた時計の街のからくり細工師さんに手錠を見てもらうんだ。忘れるところだった。」
ラビィは果物をぽとりと捨てた。
「あなたは不幸な人だ。」
そう声が遠のきながら言った。
「決めつけないでほしいね。」ラビィは声をふりおとすように、手をほろった。
この植物はこうして根の元で旅人を無気力にさせては息絶えた旅人を養分にしているのだろう。
まだなにか忘れてしまったことがあったと思ったが、それとひきかえにラビィは多少の水分と鋭気を取り戻してまた、砂漠を進みだすことができた。
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