鑑定額
「え、50万?」
じいちゃんはぎょっとした。俺もびっくりした。
ノートの封印を解いて二時間後、才木は客間に俺たちを集めて指定の魔術書の封印が解けたと伝えた。そしてすぐに鑑定額を伝えてきたのだ。
才木はうんと頷く。
「はい。確かに解読はできましたが、検証が行われておりません」
「この文字は偽物ですか」
「まだその可能性があります。意味のない文章→日記のような文章→復号した文章という手続きの魔術書もありました。偽物だってあります。封印を解いた魔術書の中身が元の魔術書と同じであるかという確証はまだありません。鑑定士の仕事は魔術書の年代、内容から値段を鑑定するところまでです。年代では正しいと言えますが内容の証明はまだできていない。封印が解けたかはわからない、つまり今は鑑定不可能または元の値段である五十万となります」
俺とじいちゃんは顔を見合わせた。それからお互い肩を下した。億単位を言い渡された後の仕事がなくなったからだ。
「ですから今のところ、相続税の対象になるような本はこの三冊です。合わせて百五十万となります」
「あの、十か月後までに解読が証明されませんか?」
一応確認のために質問する。相続税の支払い期限は父がなくなった日から十か月後までだ。
「ありません。数学の査読と同じく数年はかかります」
才木は断言した。
「仮に証明された場合、この場合は」
「魔術研究所に買い取られると思われます。それまでには所有権は別の方に移られています」
金払ってくれるんだ。やっと安心して、失礼ながらソファに沈み込んだ。
ただ安心すると欲が出てくるのも当然で、残りの二冊がもったいなく見えてきた。 父の残した仕事である二冊。解決できずに急死した父。家庭をほぼ投げ売った結果がこの一冊だけなのか。
寂しいというよりも、自分の寂しさや嫉妬の結果が無意味に終わったことが苛立たしかった。一冊解読できたということが猶更口惜しい。
「物件についても魔術関係の問題はありましたか?」
「その辺りは管轄外のため、一応魔術協会の方に依頼した方がいいと思われます。紹介しましょうか?」
「頼む。私らはなにもわからん」
「では」
「あのさ」
直が続けようとしたところで、つい水をさしてしまった。
「じいちゃん、売るの」
「私らにはもう関係ないものだ。お前は頭がいい、大学に行く金だって必要だ」
「そうなんだけど」
じゃあ解決策はあるか。と聞かれたらない。ただ自分の気持ちを伝えたかっただけだ。
じいちゃんの手は震えていた。じいちゃんも寂しがっている。自分のわがままだけじゃ通らない。
「……そうだね」
手を引いた。それで話は終わった。
「では、もしよろしければこちらの方の売却の方も魔術協会の方に依頼しましょうか」
「お願いします。金額の交渉については、こっちで弁護士を立てます」
「かまいません。基本的に競売にかけられますから、必要があれば値段の交渉もできます」
「封印書は珍しくないのですか」また水を差してしまった。
「はい。特許のように魔術の研究結果自体に報酬が支払われるようになった1980年代以前までほぼすべての魔術書にかけられていました。個人の日記から重要機密まで。内容自体に価値がないもの以外封印魔術が非常に強固なもの以外は基本価値が付きません。それでも何かしら価値を見出す人を探すためにも基本オークションになります」
「ありがとうございます」
売れないといいなあ。薄暗い望みが顔を出した。でも口には出さない。
じいちゃんと才木が契約書を交わして、才木は書類を鞄に入れて帰っていった。
高い車に乗って消えていった。外はもう真っ暗になっていた。
「今日はすまんかったな」
「いや、一日で終わってよかったよ」
自分と同じくらいの年で働く姿を見て、受験勉強をしなければと思った。まだスタートラインにも立てていない。
じいちゃんが夕食を注文すると言ったので一旦部屋に戻る。椅子に座って天井を見つめた。
今回の問題は解決した。ただまだ引っかかるところがある。でも受験期には聞けない問題であり、冬の寒さにはきつい話だ。わかったところでどうしようもない。
だから一旦頭を切り替えて、今日の残り時間でできる勉強を考え始めた。
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