父の話
父は事故死だった。階段から転げ落ち、頭を打って死んだ。
あっけない終わりだった。病院に行った時、父親はこんな顔をしていたのかとろくに父と顔を合せなかったことに気づいた。父は実家に戻ってからは月一日戻ってくる以外はずっと研究室にこもっていた。だからいない方が当たり前で、でも居なくなったのは寂しいと胸が空いた。
ただもっと話せばよかったのかといえば無理だと即答できる。話しかけてもほぼ無視、自分の好きなことにしか反応しない。祖父にももっと向き合えと怒られていた。今思い出すと少し鬱っぽいかもしれないが、メンタルクリニック系は拒否していた。だからあまり話さなかった。
葬式は粛々と行われた。父の同窓生や仕事仲間らしき人たちが数人来たくらいの小さな式だった。
お墓に遺骨を詰めた後、家に戻るとなんだか不思議な感覚だった。父子ならば悲しむべきだと常識は言う。でも遠い親戚のような父への感情が定義できなかった。
泣いた方がいいのかなあ。泣けそうな父との思い出を振り返っていたが、大体の学校の行事は祖父が出て、家に戻ったらずっと酒飲んで寝ていた。こちらから話しかけても無視。仲がものすごく悪いわけではないが思い出せば出すほど泣けなかった。
仕事に就いて話すことはなかったけど、三人暮らしで金銭に余裕があるくらいには稼いでくれていた。亡くなった後も保険金や勤務先からの死亡退職金で大学に通えるくらいあるらしい。学は心から感謝しているものの、やはり父が自分と居ても何もしなかったことばかりが思い浮かぶ。
葬式が終わり、財産の処分の手続きを終えた時に、静かに泣いていた祖父を見るとやっぱり泣けなくなっていた。
そして突然父の研究成果の話が来た。結局俺は父のことを知らないと実感させられていた。
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