第42話 成長の瞬間と小さな虹
ギフテッドと呼ばれ、腫れものに触る扱いをいつも受けていた。
クロンズとヌアンテとの世界をめぐって、人が変わったようになる。
一時は、生死をさまようくらいに危険な状態から回復した。
生きていくのが辛くて母にも相談できない。おかしな子どもと思われている。
バカな子と思われて、ずっと辛かった。人と違うことして何がいけないのか。どうして先生の言う通りにしないと罰を与えるのかわからない。ただ、その瞬間したいことをしてるだけなのに。どうして楽しいことをしてはいけないのか。どうして嫌だということを嫌だと言っていけないのか。奏多はずっとずっと考えていた。
悪いことをしたら悪魔の世界に、良いことをしたら天使の世界に行くとか言うのを直接見て来たが、どちらに行っても悪魔の世界では天使のように正義感強い悪魔はいる。天使の世界では監獄にいるようにおしおきをさせられる。どちらも正義も悪も存在する。なんで善悪を決めるのか。どっちも辛いことばかり。そんな世界を味わったら、ルールのあることのありがたさをしみじみ感じた。
右を向けば右、左を向けば左。
そんな世界でもずっとあるわけではない。今だけ我慢すれば、
いつかは自由な世界が待っている。
大人になったら、嫌でも自分で決めていかなくてはいけない。そう感じた。
今が自由すぎると大人になったときの楽しみが半減する。
そこまで考えた。
奏多は、今のここにいる学校という世界を楽しもうと思った。固執した考えは今はいらない。楽しめばいいんだと。辛いこともあるかもしれない。でも少しだけ我慢したら、楽しみなことがもっと楽しくなる。
「奏多くん!」
クラスメイトたちに名前で呼ばれることに幸福感を覚えた。先生に褒められることがこんなに嬉しかったのかと改めて感じる。
「奏多くん、見違えるようにクラスに溶け込むようになりましたね」
「え、ええ……先生とクラスメイトのみんなのおかげですね」
奏多の母の大沢麻実は、個別の授業参観に来ていた。横で一緒に見ていたのは奏多専用の特別講師の相沢咲人だ。仕事が減って残念がっている。
「良い事なんですけど、来月から別なところへ赴任するんです」
「そうなんですか。寂しくなりますね。相沢先生、いろいろとお世話になりました」
麻実は、深くお辞儀をした。
「いえ、いいんです。僕は何もしてませんよ。奏多くんの力です」
そこへ、友達を取り囲んだ奏多がやってきた。
「相沢先生!」
「ん?」
「これ、お土産。僕にはもう必要ないから」
奏多は大事にしていたルービックキューブを手渡した。色はバラバラの状態だ。
「え、本当にいいの? 奏多くん、すごく大事にしていたものだよね?」
「それが無くても友達と一緒に遊べるから大丈夫だよ。遊具とかトランプとか……鬼ごっことかね。あ、隼人くん、氷鬼しようよ!!」
「うん、いいよ。校庭行こう!!」
今まで話したことないお友達とも気軽に話せるようになっていた。その姿を見て、麻実は感動のあまり静かに涙した。こんなに溶け込む姿を見て、信じられないくらい嬉しかった。
青空から四角い扉を開けてクロンズとヌアンテが奏多の通う学校を覗いていた。
ふわふわと浮かぶ雲の上で様子を伺うと、奏多はたくさんの友達と氷鬼を楽しんでいた。見たことのない行動に2人は笑顔を見せた。
「元気に学校生活送ってるな。奏多にとってもいい経験だったのか」
「そうかもしれないね。異世界を体験したわけだから、現実世界にこだわってることが柔軟になってきたかもしれないわ」
「世界はいつだって自分の力で変えられるからな。良くも悪くも自分次第……。奏多は大丈夫だな」
ほっとするクロンズだった。ヌアンテは母の麻実と同じで涙していた。
「オウム返しの奏多くんがこの世界を受け入れるなんて……よかったね」
「行くぞ、次は息吹だ」
「ええ……」
クロンズとヌアンテはまた空の上の扉を開けて、ふわっと飛んで行った。
奏多は朝顔の花に水を上げようとペットボトルに入ったシャワーを上からかけた。そこには小さな虹ができた。
「綺麗!」
「本当だ。綺麗だね」
綺麗なものは綺麗、楽しいことは楽しい。当たり前なことを素直に言える自分になれて心うきうきしていた。感情の殻を破くことができて嬉しかった。
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