第37話 塔の頂点での闘い

高い塔を登っていくと物々しい空気が広がっていた。

辺りは黒い雲がどんどん増えていく。

らせん階段をのぼっていく。どこに行くのかわからないが、逃げるにはとにかく上だと思い、クロンズは息吹、奏多、光宙、微宙、ヌアンテの順番に進んで行く。後ろからどんどんと悪魔の動物兵士たちが次々と追いかけて来る。てっぺんまで登り切ったとき、そこにはルシファーが空を見上げて待ち構えていた。


「ここに来ると思っていたよ。クロンズ。なんで、ヌアンテを連れ出そうとしている?」


「る、ルシファー様!!」

 

 

 ここまで来て、なぜかクロンズはルシファーに頭が上がらない。悪魔の世界ではクロンズにとって師匠でもある。今行動していることを忘れるくらいのおどろおどろしいオーラが放たれていた。


「ヌアンテ、なぜ、牢屋から出て来た?」

「…………」

「お前はこれから処刑を受けるべきものだ。黙って待っていればいいものを。まぁ、よい。それが早いか遅いかだ」


 ルシファーは、大きな黒い翼を広げ、ヌアンテの体をがっちりとおさえた。


「やめて!!」

「暴れるんじゃない!! 悪魔の出来損ないが!! 天使にもなれず、悪魔にもなれない中途半端なお前に存在価値はない!!」


 思いっきり手を振り上げた。ヌアンテの体は灰色のレンガの壁に吹き飛ばされた。背中に強く当たって、灰色の翼が折れかかった。もう空を飛べない。


「ルシファー様……」

 クロンズはそのルシファーの言動と行動が許せず、物々しいオーラを漂わせて、顔を上げた。


「どういうことですか。天使にも悪魔にもなれなかったら、存在価値がないとは。そもそも、悪魔は出来損ないの集まりではないのですか。それに正義を振りかざして、何が正しいというのですか。天使にだって、正義と言いながら悪魔のように立ち振る舞うものもいます。それをヌアンテは天使から悪魔に転生して、中途半端な姿だから抹殺しろとはおかしな話だと思いませんか!? ルシファー様は100パーセント完璧だとおっしゃるのですか? 小さな我が子を目の前にしたら、でれでれになって悪というものをお忘れになってるじゃないですか?!」


そんなことを言ったら、きっと殺される。そう思っていたクロンズは勇気を振り絞って発言した。ルシファーは聞いてる途中、怒りが頂点に達して今にもトライデントが繰り出そうとしたが、娘の話をして、にわかに落ち着きを取り戻してきた。


「……何をいう。私が完璧じゃなければなんだというのだ。口を慎め!!」

「?!」

 ルシファーは手を振り上げて、魔法で空中にたくさんの短剣を出した。クロンズに向かって、すべてを飛ばそうとしたその時、息吹が魔法を唱えた。


『コールドブレス!!!』


 大きく息を吸って、クロンズの前にビルの建物以上に大きな氷を魔法で出した。近づいてきた短剣はすべて氷に刺さって、みな無事に済んだ。


「危なかった!」

「息吹、ありがとな」

「ううん、それより悠長にしてられないみたいだよ」


 ルシファーの怒りは最上級になり始めて来た。壁に投げ出されて、けがを負ったヌアンテは体を起こした。クロンズとルシファーが向かい合っているその姿に危機を感じる。


「ダメーーーーー!!!」


 悪魔になりかけたヌアンテは天使の心を取り戻す。大きな声があたり全体に響き割った。押しかけてきた動物兵士たちに囲まれている。ヌアンテの声に過剰に反応したのは奏多だった。耳にネガティブなヌアンテの想いが入り込み、頭は痛くなった。両手で頭をおさえて、立っていらなくなって、その場に倒れる。


「奏多! 大丈夫か」

「奏多くん!」

 息吹は、迫りくる動物兵士から身を守るため、また息を吐く。


『ファイアーブレス!!』


 どうにか全体的に攻撃できて、周辺兵士を倒すことができた。

 奏多のもとに駆け寄った。

 ヌアンテは、右手を高く高く天にかざして唱えた。


『ホーーリーーシャワーーーーー!!!』


 真っ暗闇の空から聖なる月と星の光の力を借りて、パワーを集めた。その光はシャワーのごとく、たくさんの動物兵士とルシファー、クロンズやヌアンテたちに降りかかった。眩しくて、目を開けることができないくらいだ。


「うわーー!!」

 

 真っ白な世界に飛び込んだような、そんな感覚になっていた。

 クロンズは腕を目に隠して、微宙は体を隠し、光宙は翼で隠し、ヌアンテは平気な顔をして、みなを見ていた。奏多は倒れたまま目を覚ましていない。息吹は両腕で顔を隠した。一番に効果があったのはルシファーの方だった。聖なる光が弱点で目を開けることが不可能になった。うろうろと動き回りながら、塔の一番上、レンガの壁の向こう側に行ってしまった。そう、それは、真っ逆さまにしたに落ちるということだ。


「うわーーーーーーー」


 まさか自分が落ちるとは思っていなかったどうすることもできずに地面に全身を強く打って、息絶えてしまった。


「これで……よかったのだろうか」


 クロンズは何ともいえない表情で眩しく光り続けるヌアンテの聖なる魔法の中、ルシファーの最期の姿を見つめていた。


 黒い雲が晴れて、夜空にはとてもきれいなまんまるの満月が光輝いていた。隣では一等星がこれでもかと光っていた。







 

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