第34話 海坊主との戦い
息吹はプールサイドで魔法を唱える。
クイックブレスは泳ぎが早くなる呪文らしい。
微宙は、フラフラの光宙に回復魔法を唱えていた。
水泳帽子をかぶって、頭にゴーグルを装着した。
「僕は何もしなくていいの?」
「奏多くんは、息吹くん応援しよう。そうだなぁ、ノイズで敵の邪魔をするってこともできるかもだけど」
「やめてよ! 正々堂々と対決できないじゃん。僕は真面目に海坊主に勝つから!!」
息吹はゴーグルをつけ終わって、微宙と息吹に訴えた。回復したはずの光宙はフェンスの上で休んでいる。
3の番号のスタートラインに立ち、気合を入れた息吹。隣には、鼻息を荒くした海坊主が水泳対決ができるとあって、興奮している。
「まさか、海坊主と対決するとは思わなかった」
「「頑張って!!」」
微宙と息吹は大きな声で応援する。光宙は空中にホイッスルを出して、音を出した。その音でスタートを切る。
海坊主は、クロールで泳いでいる。息吹も負けてられないぞという気持ちを持ちながら、同じクロールで泳いだ。最近、ようやく25mを泳げるようになった息吹だ。息継ぎも徐々に上手にできるようになった。
順調に進んでいると思っていた。どちらも本気で気合いが入っている。どちらかが大差なく、同時に泳いでいて、結果が見えてこない。イライラした海坊主が腕で水をかく際に、大きな力で波を引き起こした。息吹は波の力に耐えきれず、さすがの息吹も溺れかける。
「息吹くん!!」
心配になった奏多は不安そうに駆けつけた。微宙も奏多の肩に乗って近づいた。何かアイデアが無いかと考える。ポンっと手のひらを打った。クロンズから唯一技を見せてくれたものがあった。
『ホワイトアンブレラ!!』
効くか効かないかはわからないが、とにかく使ってみようという奏多の考えだった。波が起きていたプールの中たくさんの白い傘で溢れた。
「え、これどうしろと?」
息吹は混乱した。奏多はしてやったりのドヤ顔をしている。まだ解決はしていない。傘がたくさんになって、ゴールのプールサイドに海坊主は届いていない。あたふたと動いている。
「ナイス!」
息吹は、さらに自分の魔法を使おうとひらめいた。
『コールドブレス!!!』
空気を思いっきり吸い込んで、コールドブレスの魔法を唱えた。一瞬にして、プールの中の水はカチンコチンに凍ってしまった。水の中に入っていた海坊主もアクリルスタンドのように固まっている。息吹たちは海坊主をプールサイドから眺めていた。
「よっしゃーー! やったな」
息吹と奏多はグータッチした。自然の流れで出来たことが奏多もうれしかった。息吹と一緒だとなんでもできそうな気がしていた。微宙と光宙もご機嫌だった。
微宙はこのコンビは何とかなるんじゃないかと安心した。
2人はさらにハイタッチして盛り上がっていた。
平和な水泳の時間が戻ってきた。
異次元空間に息吹以外が戻っていくと思われたが、息吹も一緒に引っ張られていく。
「え、僕も行くの?」
「大変なんだ。クロンズとヌアンテを助けに行かないといけないから着いてきて!!」
微宙は体の針を逆立てて言う。異空間の中、みんなふわふわと浮かびながら移動する。
「そういや、2人いなかったね。何かあったの?」
息吹が言う。
「話せば長くなるから。行くよ!」
微宙は叫ぶ。光宙はなぜか意気消沈している。
隣に座る奏多はうなずいた。
クロンズとヌアンテを救いに行く旅が始まった。
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