第33話 プールの中で
青空にはひつじ雲がたくさん浮かんでいた。
小学校のプールでは、今年初めて入ることもあって、みんな、嬉しそうだった。
きゃきゃ水をかけ合いながら楽しんでいる。
そんな中、スイミングに通っていた息吹は、自信満々に周りにアピールして中に入るが、想像以上に水が冷たかった。
水の中でガタガタと震える。
「今日は自由に泳いでみましょう。泳ぐのが苦手な子は手をあげて教えてね」
担任の先生も水着を着て、生徒たちに指示を出した。水の中に入るだけで楽しむ子もいて、話を聞いてない子もいる。
「先生! 見てみて、僕クロール泳げるんだよ!」
「私は、犬かき。すごいでしょう」
「僕は背泳ぎ……」
「それ、ただ、浮かんでいるだけでしょう」
きゃははウフフと生徒たちは終始楽しそうだった。先生も誇らしげに見ている。
すると、端っこの方でずっと、動かずに止まっている女の子がいた。
「私、泳ぐの苦手なんだけど、なんで強制的に入らなくちゃいけないのかな」
息吹はその女の子が気になった。スイミングに通っているだけあって、泳げる息吹は、女の子の嫌がる様子がいまいち理解できなかった。こんなに楽しいのにとそっと近づいて、みんなと遊ぼうと誘導した。
「私は嫌だって言ってるの!! やめて!!」
腕を引っ張って連れて行こうとしたら、腕を振り払われた。
息吹はㇵッとして驚いた。その様子を見ていた先生は息吹にやめておきなさいとジェスチャーした。
「もう、いやなの!! 溺れそうになって、大変になったからプールに入りたくないのに、先生とか学校は、水着を強制的に着せられて、テストとか出してきて、できなければだめみたいな感じにされる。好きなように選ばせてほしいのに、もう、こんな学校来たくないよ!」
水泳が苦手な葵歌が騒いで、プールから上がろうとすると、排水溝に足が絡まり、ぶくぶくと体が沈んでいく。
「葵歌ちゃん!!!!」
血相を変えた担任の先生が慌てて、駆けつける。息吹はその瞬間、空中に黒いもくもくと煙のようなものが葵歌の近くに漂っていた。
「あれってもしかして?!」
その言葉を発した瞬間。あたりはセピア色に変化した。自分以外はすべて止まっている。時間が魔法によってとまったようだ。プールの端の方、丸い異空間がぶぉんと現れた。
「息吹くん! 久しぶり。元気だった?」
ハリネズミの微宙と奏多が一緒になって息吹の前に現れた。
「あ、え、うん。微宙、なんでここに? その男の子は?」
「この子は、大沢奏多くん。そして、こっちは深谷息吹くんね。2人とも直接会うのは初めてかな」
微宙は2人にそれぞれ紹介した。奏多はペコリと静かにお辞儀する。
「奏多くんだね。かっこいい名前。僕、息吹、よろしくね」
握手を求めようとしたが、奏多は恥ずかしくなって手を出すことはなかった。
「それより、光宙は? まだ来てない? モンスター出てるのに来てないっておかしいね」
微宙は、辺りをキョロキョロと見渡した。セピア色に染まって周りの時間が止まっている中、ふらふらぱたぱたと光宙が出て来た。
「お待たせ……。もう、ここに来るのも大変だったよ」
「え? 何かあったの?」
微宙が聞く。
「いやいや、僕の話はあとで。時間止められるのもあと少しだから早くやってしまおう」
「もしかして、あそこにいる煙のこと?」
水着姿の息吹が指をさす。
「そう、実体化するよ。気を付けて」
ぐんぐんと黒い煙の中から緑色の海坊主が現れた。身長3Mはあるだろうか。こちらの様子をじろじろと伺っている。
「え? かっぱじゃないよね」
「違うよ、海坊主。プールの中なのにね」
「微宙、これは、どうやって倒すの?」
「ちょっと待って調べてみる」
微宙は、透明なウィンドウを開いて、モンスター情報を確認した。
「これは、大変だ。息吹くん、泳ぐのは得意なんだよね」
「もちろん!あたり前でしょう」
「そしたら、その泳ぎを海坊主に見せつけないと」
「え?! どういうこと?」
「水泳対決だよ。早く泳げたら、納得して消えるから」
「嘘ぉ、僕大丈夫かなぁ」
「新しい魔法も次いでに覚えよう。『クイックブレス』だよ。早い呼吸方法で泳ぎも早くなるだって」
「どうやって?」
「手をかざして、唱えれば大丈夫。ほら、とめた時間が解除されちゃうから」
「うん、わかった」
息吹は深呼吸して手をかざし、魔法を唱えた。
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