第29話 奏多が倒す敵
暑い体育館の中、息を荒くした生徒たちは友達の交流を密にしようと提案されたドッチボールを行っていた。内野か外野に分かれて、先に多くのアウトにしたチームの勝ちだった。ほとんどのメンバーが幼稚園の時から仲良しで和気あいあいとしていた。
そんな中、大沢奏多はステージの上、体操着には着替えていたが、ずっとお気に入りのルービックキューブをひたすらカチャカチャと解いていた。
「奏多くん、どう? 今回の先生の問題はできたかな」
最近、奏多専用の担当の先生として赴任してきた
「先生、僕は、これ好きだけど、こればかりはしていないから」
6面すべての色を合わせた奏多は、相沢先生の手のひらにルービックキューブを置いて去っていく。
「うわ、すごいじゃん。難しくしたつもりなのに……。どこ行くの?」
「トイレ」
そう言って奏多は体育館ステージからぴょんと大ジャンプして、トイレに向かった。相沢先生は、ルービックキューブをジロジロと見て、改めて確かめた。
「すっげーな。俺でもできないのに」
トイレに行く途中の窓から外を眺めると高学年の子たちが、50m走のスポーツテストをしていた。奏多は、走るのは好きだった。あっちに参加できないのが残念だと思う。ふと目線を戻して、トイレに向かった。個室に入ってこもっていると、体育館から同じように用を足しにきたクラスメイトの男子が2人来た。
「なぁなぁ、あいつ。ずるいよなぁ。嫌いな授業あったら、さぼれてさ。俺も嫌なのあったら、やりたくないのにさ!」
「確かにそうだよな。好きでやってるわけないのに、ずるすぎるよな」
「なぁ。マジでいなくなってほしい。目障りだもんな」
「そうだよ、そうだ。いっそのこと死んじゃえばいいのに……」
個室で丸聞こえだ。奏多の話を言ってるんだとすぐにわかった。さぼっているわけではないが、見学しているのは奏多しかいないからだ。考えないようにすればそれまでだが、ここまではっきり言われると、脳天をぶちぬかれたようだ。ことなおさら、死のワードが出ただけで頭の中が真っ暗闇に取り込まれた。奏多の背中から、どす黒い煙のようなオーラがじわじわと現れ始める。
どうして、やりたくないことをやりたくないって言ってはいけないのか。どうして、やりたくないのにやらなければならないのか。奏多には到底理解できないことだった。学校は集団行動。足並みそろえて、みんなと一緒。個性は関係ない。個人も関係ない。見る方向は一緒でみんな同じテストの点数をとらなくてはいけない。そんな風潮が嫌いだった。
「うううう…………」
頭を抱えてトイレの中で下を向く。ズキンズキンんとこめかみあたりの頭痛がしてきた。
トイレの上の方、縞々でカラフルな服を着た赤い鼻のピエロがカエルのような動きを見せた。
『この世はすべて嘘だらけ。我慢して生きる人間がたくさんいるんだ。君はどっち?? きゃきゃきゃきゃ』
甲高い声で耳が痛いくらいの笑い声。奏多のネガティブモンスターが実体化した。属性は不明だ。今まで、クロンズに教わった魔法で倒せるか不安になった。一瞬にして、異次元空間に切り替わった。もう奏多以外人間はいない。
「ちっ。面倒なのが敵だな」
舌打ちしながら、指をこする。ルービックキューブがないことにもやもやする。
「わーーーー、ごめんなさい!」
突然真上からボンッとハリネズミの微宙が落ちて来た。予想外の出来事だ。ハリネズミの針は痛い。奏多の頭にちくちくと地味に痛かった。
「……つぅーー」
もともと頭痛がしていたのに、さらに痛くなって、頭を抱えて、しゃがむ。まだ痛みは取れない。
ピエロの『バッドジョーカー』は何度もジャンプして、小ばかにするようにニコニコと笑っている。
「えーー!? すっごい面倒なモンスターだね。奏多くん、どんな思考してるのさ」
「悪かったなぁ」
奏多は、頭をおさえながら、ぶすっと機嫌が悪くふくれっ面になった。
言いすぎたと感じた、微宙はそっと奏多のそばに近寄った。
「そしたら、一緒にあいつの弱点見つけようか」
微宙は、透明なウィンドウを指で開いて、検索をかけた。なかなかヘルプ機能が開けなかった。この戦いは時間がかかりそうだった。
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