第26話 天使の世界の1人の悪魔

悪魔の世界と天使の世界、人間の世界の次元のはざま。

虹色でぐるぐるとした空間にコウモリの光宙とハリネズミの微宙がふわふわと浮いていた。


「ねぇ、僕たちなんでここにいるんだっけ?」

「なんで悪魔のルシファー様に魔法でいつの間にか飛ばされたんだよ。ヌアンテは悪魔の世界に連れていかれるし、クロンズはなぜか天使の世界に行きましょうってヌアンテのパパとママが連れてったんだよ」

 光宙はたんたんと説明する。すると空中に透明なディスプレイを2つ表示させた。

「2人の様子を調べてみようか」

 1つはヌアンテがいる悪魔の世界。もう1つは、クロンズがいる天使の世界。

 ヌアンテが映る姿は牢屋の中でうずくまっている状態だった。


「微宙、大変だ。ヌアンテが悪魔の世界の牢屋で閉じ込められてる。もしかして、処刑とかされちゃう?!」

「え、なんて乱暴なの? 悪魔の世界ではすぐに処刑ってなるの? というかヌアンテは悪魔の姿に変身したのにどうして捕まらなくちゃいけないんだ? ヌアンテがかわいそうだよ!! 助けにいかないと!」 

「ちょっと待って、クロンズに助けを呼ぼう。僕たちだけじゃ助けに行けない。今、クロンズは何をしているのかな」

 2つある画面のうち、クロンズがうつる姿を眺めた。


 ◇◇◇


「クロンズ、久しぶりだねぇ。いらっしゃい。ゆっくりしていなさいね」

 ヌアンテの祖母がお茶を飲みながら、こっちのテーブルに来なさいと促した。一見、何も問題ないように思われた。玄関先で立ち尽くすクロンズはヌアンテの家の中に入ろうとする。

「お、お邪魔します」

 挨拶はするようにといつか言われたことがあった。中に入ろうとするが、履いていた靴はぐちゃぐちゃに慌てて入ると、ヌアンテの母が大きな声で注意する。

「クロンズ!! 靴は揃えないとだめよ。お行儀が悪いわ」

 クロンズの母にも滅多に怒られたことがない。怖くて背中に冷や汗をかいた。

「は、はい」

 揃えたことのない靴を見よう見まねで丁寧にそろえた。

「こ、こんな感じでいいですか?」

「そうね、綺麗じゃないの。いいわよぉ」

 突然、ニコニコ笑顔になるヌアンテの母だ。クロンズはドキドキしながら、ヌアンテの祖母の近くに寄った。

「挨拶するときは、三つ指を立て、三角形を作って、こういうふうにお辞儀するのよ」

 ヌアンテの母は丁寧にクロンズに座って挨拶する姿を見せた。かちこちに固まった体。やったことのない挨拶をさせられて、息が詰まりそうだった。悪魔の世界ではそんなことしたことがない。声をかけることはあるが、手をパッとあげて終わりとか、むしろ挨拶をしなくても平気なところだ。かいたことのない汗を大量にかく。


「本当に悪魔って無礼よね。お行儀が悪いし、どんなしつけ方をすればそうなるのかしら。挨拶はきちんと、しないとね。お互いに気持ちいい対応ができるのよ」

(挨拶なんてしなくても、会話すればいいだろ。挨拶しても会話できないやつたくさんいるわ。そっちの方が問題だと俺は思うけど……)

 頭の中でもやもやと考える。ここは天使の世界。変なことは言えない。正座をしいたげられて、ずっとヌアンテの祖母の説教を延々と聞かされた。天使という割にこの説教で地獄のような空間が発生している。本当にここは天使の世界のなのだろうか。クロンズは納得できなくなって、舌打ちをした。


「なに? 今のあなた一体何をしたの?!」

 ヌアンテの母はクロンズの舌打ちに過剰に反応した。

「え、いや、あの……何もしてません」

「クロンズ、今、舌打ちしたわね。おばあさまを侮辱するとは何たる無礼者。恥を知りなさい。恥を!!」

 ヌアンテの母は立ち上がり、右腕を振り上げて、魔法を唱えた。すると、クロンズの両腕が透明な力により、後ろで縛れて、動かすことができない。足も同時にぴったりとくっついて、自由に動かすことができなかった。

 悪魔の世界でさえ、されたことのないお仕置きがされている。


「……痛っ」

「そうよ、間違ったことをしたり、悪いことをしたらお仕置きがあるのよ」


 うさぎの兵士たちが集まってきて、クロンズの両腕を2匹のうさぎに連れていかれた。

「牢屋に入れて、反省させなさい!!」

「「ㇵッ!!」」


 クロンズは天使のようだと言われて来たものの、結局は悪魔のような扱いを受けることになった。見た目はもちろん悪魔のなのだが、納得ができなかった。



「どうするよ、クロンズも捕まっているよ」

「ああ、マジで大変だよ。ご師匠様に相談だ」

 透明なディスプレイに映るクロンズの姿を見て、慌てる光宙と微宙。

 その場を騒ぎながらぐるぐるとまわってパニックになっていた。






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