第24話 救世主が現る。

イルカのネイビーノイズは、超音波のような高音を出しながら、床を泳いで、こちらに向かってくる。クロンズから攻撃をする間もなく、引きずり込まれてしまう。絶体絶命かと思われた。逃げるや逃げるで走り抜ける。突然、眩しい光に包まれて、床の中に閉じ込められそうになる。突然、クロンズと光宙、微宙は、光の力により、ぽんっと空中にふわりと浮いて、瞬間移動した。

「なに!?」

 ヌアンテはまさかそんなことが起きるのかと驚いた顔をしていた。

 そこへクロンズたちの所に偉大な救世主があらわれた。


「あ……」

 ヌアンテは冷や汗をかいて後ずさりをする。

「何をしている! ささっとやってしまいなさい!!」

 ルシファーがヌアンテに注意を促す。それでも、手足が震えて、先に進むことができていない。

「なにをもたもたとしているんだ!!」

 ルシファーは、震えるヌアンテの前に立ちはばかる。


「ヌアンテ、何をしているの」

 眩しく光るその先に、大きく白い翼をばさっと広げた影がある。


「ま、ママ!?」

 ヌアンテの母がクロンズたちの前に現れた。正気を取り戻したのか、悪魔のアスモデウスの力を持ったまま、紫の瞳が青い瞳に戻り始めていた。

 母の隣には父も静かにやってきた。


「ヌアンテ……本当に悪魔になってしまうのか?」

「ぱ、パパ!!」

 

 ヌアンテの気持ちはものすごく揺れ動く。悪魔の力が弱っていく。その様子を見て、明らかに対応できないと感じたルシファーが舌打ちをした。

「これは状況よくない!!!」

 ヌアンテを両手で抱えて、黒い翼を大きく広げて、逃げようと飛び立った。


「やめて!! 私は悪魔なんかにならない。絶対にならないから!!!」

 体は悪魔のアスモデウスのまま、瞳だけ天使の青になっている。心と体のバランスが取れていない。そう叫びながら、ルシファーは異次元空間を丸く魔法で作るとその中にふわふわと飛んで行ってしまった。通り抜けるとしゅっと丸は縮まっている。


「逃げられた……。ちくしょう!!」

 クロンズは足で地面を蹴飛ばした。

 ヌアンテの父母は、その姿を見て、残念そうにため息をつく。

「ごめんね、クロンズ。昔から、いつもヌアンテのこと面倒みてくれたのに、今回も迷惑かけちゃったよね。本当にごめんなさいね」

 深くお辞儀をして、謝る。クロンズは顔を上げてくださいという。

「ああ、そうだなぁ、申し訳なかった。私ももっと、ヌアンテに指導するべきだったかな」腕を組んで、悩ましい顔をするヌアンテの父。

「いえ、俺も力不足でした。もっと悪魔の力のレベルを上げていれば、こんなことにはならなかったかもしれません。すいませんでした」

「ちょっと、待って。どうして、クロンズが謝るの。あなたは天使じゃないの。悪魔なんだから仕方ないわよ。むしろ、悪魔になって増えてくれてありがとうって考えになると思うんだけど、どこか違うわ……。あなた、本当は天使じゃないかしら」

「確かに、悪魔にしては優しすぎるよな。昔から。一度、天使の試験受けてみてはどうだ? そんなやり方してたら、悪魔の世界で生きにくいじゃないか?」

「え?!」

 クロンズは度肝を抜かれたように驚いた。

 光宙と微宙は、ヌアンテの父母のいうことを聞くしかなく、クロンズの味方にはなれなかった。いつの間にか、捕らわれた宇宙人のように2人に両脇を抱えられ、一瞬で天使の世界に瞬間移動した。


「俺は悪魔ですってぇーーーー!!」


 もう後戻りはできなかった。



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