第11話 秘密の仕事
冒険者ギルド支部、三階の応接室。
ギャンツから冒険者登録するための取引を持ちかけられたレンたちは。
「これから仕事の内容を話すが、引き返すなら今だぜ?」
「いいからさっさと話してくれ。正規の方法で冒険者になれない以上、俺たちに他の選択肢はないんだからな」
「フッ……こっちの兄ちゃんはそう言ってるが嬢ちゃんもそれでいいのか?」
「――レン様がそれでいいならもう私からは何も言いません」
「ちょっと待った。
アリスの
「だからアリスまで危険を冒す必要はな――イテッ」
そう思ったのだが、アリスに脇腹を思い切りつねられる。
アリスの細腕でつねられてもはまったく痛くないが、驚いて反射的に声が出てしまった。
「アリス……?」
「なんで、そんなこと言うんですか……レン様にとって私は足手纏いですか……?」
「――いや、そんなことは――」
失敗した。アリスを危険から遠ざけたいあまり、アリスの気持ちを考えていなかった。
「私たちは仲間です……? レン様の問題は私の問題でもあります。私一人蚊帳の外にするようなことは言わないでください……」
彼女は怒っている訳ではない。悲しんでいるのだ。
「……ごめん。俺が悪かった」
「分かってもらえたならよかったです。でも次同じことを言ったら本当に怒りますからね?」
「ああ、肝に銘じるよ」
どうやら許してもらえたようだ。二度とアリスにこんな顔をさせないように気をつけなければ。アリスに嫌われたくはない。
「痴話喧嘩は終わったか? そろそろ仕事の話をしたいんだが?」
静観していたギャンツが呆れ顔でそう言うと、アリスが顔を真っ赤にして「ち、痴話喧嘩じゃありません!」と叫ぶのだった。
〜〜〜
「お前たちに任せたい仕事は端的に言うと人探しだ」
「人探し?」
「そうだ。ドラウグル王国北東にある
本当はギルドに捜索依頼を出したいんだが、こいつがちと訳ありでな。
代わりに都合よく働いてくれそうなお前たちに捜索してもらおうって訳だ。もちろん他言無用でな。
無事に見つけられたらその時は俺の権限で冒険者にでもなんでもしてやる」
正規の冒険者登録ができないレンと、正規の依頼ができないギャンツ。互いに利害が一致する訳か。
だが、こちらとしては願ってもいない提案だ。
「では、その方の名前と外見の特徴を教えてください」
「名前はクレア。歳は……十九だったか? 金髪の乳がでかい女だ。目立つから一目で分かる」
「女性一人でダンジョン探索ですか……それで、クレアさんがダンジョンに向かってどれくらい経っているんですか?」
「四日だ」
「それぐらいならまだ探索しているのでは?」
「いいや。
「なるほど、それは心配ですね」
「よく知らないんだが、ダンジョンってのはどういう場所なんだ? 危険なのか?」
「冒険者になりてェのにダンジョンを知らんのかお前?」
ギャンツは呆れ顔でこちらを見てくる。冒険者にとってダンジョンとは重要な場所なのだろうか。
「まあいい。ダンジョンってのはな、大昔から存在する特殊な地下迷宮のことだ。
いつから存在していたのか、誰が作ったのかは分からねェが、内部は常に資源で溢れていて、冒険者にとっては宝の山のような場所だ。
だが、資源が豊富なダンジョンほど魔物も多いし危険なトラップもある。
ま、それでも一攫千金を狙った無謀な冒険者が後を経たないんだがな」
「ならもう死んでるんじゃないのか?」
「いいや、その可能性は低い。最低限の水や食料はダンジョンからでも取れるし、
それにクレアはそこそこ腕が立つ。
大方、道にでも迷って途方に暮れてるんだろ」
「初心者向けとはいえ、私もレン様もダンジョン探索なんて未経験です。何か策はあるんですか?」
魔物が襲ってくるだけなら、レンでも対処できそうだが、トラップや迷路などは素人のレンにはどうしようもない。
「冒険者ですらない奴らにダンジョン探索なんて自殺行為だが、そっちの兄ちゃんなら話は変わってくる。お前、つえーだろ」
ギャンツの目が試すようなものへと変わる。
「なんでそう思うんだ?」
「……イカれた
こいつは強ェってな。
お前は一見、隙だらけのただのド素人に見える……いや、実際ド素人なのかもな。
だが、並の冒険者じゃあお前には絶対に歯が立たないだろう。
この矛盾が分かるか?
今まで数多の冒険者を見てきたがお前のような奴は初めて見た」
「レン様は自分の力を誇示する様な人じゃありません。
能ある鷹は爪を隠すというでしょう?」
「確かに、ある程度の実力者なら、弱いふりをし、相手を油断させたりもする。だが、こいつのそれは素だろ。
だから気持ち悪りィ。一体何者だ?」
「それは俺が知りたいところだな……」
流石は冒険者ギルドの支部長といったところか。感が鋭い。当たらずとも遠からずだ。
「とにかく、俺がお前らに無茶を言ってるのは、兄ちゃんの実力なら問題ないと思ったからだ」
どうやらギャンツにも無茶を言っている自覚はあるらしい。
「レン様の強さは私が保証しますが、強さだけではどうしようもないこともあります。その辺はどうするんですか?」
「確かに嬢ちゃんの言う通りだ。だから、今から俺がダンジョンについて知っていることを全て話す。ある程度の強さと知識さえあれば、素人のお前たちでもダンジョン攻略はできる」
〜〜〜
二時間後。
「今言ったことはしっかり頭に叩き込んでおけ」
「はい」
ギャンツから
レンも最初は聞いていたが、情報量の多さと、知らないファンタジー用語の数々に理解が追いつかず途中で断念した。
これをメモを取らずに聞いているアリスには脱帽だ。
「それと最下層には絶対に近づくな。さっき言ったダンジョンの主が居る。
こいつの強さは他の魔物の比じゃねェからな。ベテランの冒険者パーティが複数集まってやっと討伐できる怪物だ。当然クレアもそんな場所には踏み入らねェ」
「分かりました」
「あとは……そうだ、これを渡すんだった」
ギャンツはどこからか一枚の古い羊皮紙を取り出し、テーブルの上にそれを置いた。
「これは?」
「
だからその都度マッピングする必要があるんだが……お前らマッピングのやり方なんてどうせ知らねェだろ?」
「そうですね」
「そこでこのエターナルマップだ。対象のダンジョン内の地形が現在地付きでリアルタイムで描写される」
「そんな便利なもんがあるのに、なんで遭難したんだよ……」
異世界版グーグ〇マップを持っていて遭難したなら方向音痴の度が過ぎている。
「バカ言え、これめちゃくちゃ貴重なんだぞ。そこらの冒険者が持てるような代物じゃねェ。お前らも絶対返せよ」
そんな貴重な物を、今日あったばかりのレンたちに貸してくれるとは意外と信用されてるのかと思う。だが、多分そうではない。
クレアという人物がギャンツにとって余程大切な存在なのだろう。
「俺が知ってることは全部教えたし、できることはもうない。装備の準備ができたら、明日にでも出発してくれ」
そう言うとギャンツはレンたちに退室を促した。
〜〜〜
翌日早朝。城門前。
ダンジョンに向け王都を出発する事を聞いた宿屋の娘、リアが見送りに来てくれた。
アリスはいつのまにかリアと交友関係を築いていたらしい。
「アリス。これ、お弁当です。レンさんと一緒に食べてください」
「こんな朝早くにわざわざ作ってくれたのですか……!?」
「これくらいしか私にはできませんから。頑張ってくださいね。アリス、帰ったらお話しいっぱい聞かせてくださいね?」
「もちろんです! 楽しみに待っていてください!」
「レンさん、アリスのことよろしくお願いしますね……?」
「言われなくてもアリスは俺が守る」
「……流石、アリスのほれ――ッンーンー!」
リアがレンの脇腹を肘で突きながら何か言おうとしたが、顔を真っ赤にしたアリスがリアの口を両手で塞いだ。
「――リア!? 何を言おうとしてるんですか!?」
そんな騒がしい見送りを後に、レンとアリスは王都から北東の地、
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