第9話 服屋
宿屋のバーで朝食を食べながら、本日の予定をアリスと話していた。
「検問の時にも少し言いましたが、王都での目的は旅に必要な装備品の調達や、食料の調達です」
「なるほど、じゃあ今日はそれを買いに行くのか?」
「いえ、まずは、冒険者ギルドで冒険者登録を行いましょう」
「……? 冒険者になるのか?」
予想外の話にレンは少し驚くが、冒険者というものには興味がある。
「はい。装備品を買うにもお金が要りますので、お金を稼ぐために冒険者になりましょう」
レンは転生直後、一文無しの状態だったのもあり、金銭面は完全にアリス頼みだった。
なので、ここで冒険者として金を稼ぐのは、タダ飯のツケを払うという意味でも願ってもない話だ。
「ちなみに、今どれくらい金はあるんだ? てっきりこんな良い宿を選ぶから金銭面は問題ないのかと思ってたが……結構まずいのか?」
「いえ、大金と言うほどではありませんが、王城から逃げる際にそこそこお金になる物を持ってきたので、換金すればしばらくは問題ありません。
ですが、旅の途中でいつ大金が必要になるかも分かりませんし、お金が底をついた時に都合よく稼げる場所があるとは限りません。
そのてん王都の冒険者ギルドならお仕事も多いと思うので、ここで冒険者としての経験を積みつつ、まとまったお金を稼いでおきましょう」
「……なるほど。そこまで考えてるとは流石アリスだな」
「そ、そうですかね……? 普通だと思いますけど……でも褒めてもらえるのは嬉しいです……!」
アリスは嬉しそうに顔を綻ばせる。
十六歳でこれだけ考えて行動できるのは、素直にすごいと思うが、王女という立場故だろうか。
「それで、どれぐらい稼ぐんだ? ここはレスタム王国から近いんだろ。あまり長居するのは危険じゃないか?」
「そうですねー……追手がここまで来ないとは限りませんし……一ヶ月以内には王都を出たいですね」
「一ヶ月か、まあそれぐらいなら大丈夫か」
王都は人も多い、目立たなければ一ヶ月くらいの潜伏は容易だろう。
「じゃあ朝食を食べたら、冒険者ギルドに行くってことだな」
「あ、その前に服屋さんに行ってもいいですか? 冒険者ギルドでこの格好は流石に目立ち過ぎますので……」
アリスは今も変わらずドレス姿だ。流石に冒険者が集う場でドレスは目立つだろう。
ということで、朝食を終えたレンとアリスは服屋を探しに行くため宿屋を出る。
その時、受付嬢がアリスに向かって、ガッツポーズをし、それを見たアリスが顔を真っ赤にしてあたふたしていたが、いつのまに仲良くなったのだろうか。
〜〜〜
「わー! 可愛いお洋服がいっぱいですね!」
アリスは視界に広がる衣類の多さに目を輝かせる。
「やっぱり、冒険者になるなら、動きやすい方がいいですよねー。レン様はどれが良いと思いますか?」
様々な服を手に取り、自分の体に重ね合わせるアリス。
「俺はアリスが着たいので良いと思うぞ。ここにあるのはなら、どれを着ても目立つことはないだろうしな」
ここは貴族向けではなく、大衆向けの服屋なので、どれを着ても道行く人達と同じような格好になる。
「私……服を自分で選ぶのって初めてなんですよねー……いつも侍女が選んで持ってきたドレスを着ていたので……自分に似合う服もよく分かりませんし……」
「アリスならなんでも似合うと思うけど……」
「……そう言ってもらえるのはお世辞でも嬉しいですが、どうせ買うなら私にも似合う可愛い服がいいですね」
アリスは着飾らなくても充分可愛いと思うが、これを言ってもアリスは納得しないだろう。
「そうですね……私が気に入った服をいくつか見繕うので、その中からレン様が選んでもらえますか……?」
「え、俺が選んでいいのか? 俺も服のことはあまり分からないぞ」
「はい! レン様の好みで選んでもらって大丈夫です!」
レンの好みでいいのかと思うが、アリスが選んだ中から選ぶだけなら、ファッションセンスがないレンでも問題ないだろうか。
「アリスがそれで良いなら……俺は構わないけど……」
「決まりですね! では、服を選ぶので待っていてください」
アリスはそう言うと店の奥へと消えていった。
それから三十分後。選んできた服を両手に抱えてアリスが戻ってくる。
「お待たせしました。この中から選んでもらっていいですか?」
「どれどれ……おー……ちょっと借りるぞ」
アリスが持ってきた服を一着ずつ手に取り、アリスに重ね合わせる。実際にアリスが着た姿を想像すれば、良いものが選べるかもしれないと思ったからだ。
「私からお願いしたことなのですが、そうまじまじと見られると少し恥ずかしいですね……」
真剣に服を選んでいたのでアリスを凝視しすぎたようだ。アリスが恥ずかしそうに目を逸らす。
「悪い。でも我慢してくれ。どうせなら一番似合うのを選びたい」
「は、はい。お願いします」
「――うーん。これか? いや、こっちの方がアリスっぽいか……うん。これにしよう」
レンは数分悩んだ後、選んだ服を一式アリスに渡す。
「ありがとうございます! 早速買って着てみますね!」
「ああ、楽しみに待ってるよ」
アリスはレンから服を受け取ると、足早に店主のいるカウンターに向かっていった。
五分ほど店の外で待っていると、アリスは買った服に着替えて店の外に出てくる。
「あの……どうですかね……? 変じゃありませんか?」
自信がないのか上目遣いに、恐る恐る聞いてくる。
レンが選んだ服は肩の一部や前腕が露出されている白い生地でできた服だ。
下はショートパンツのようなものを選んだので、アリスの純白の太ももが大胆に露出されている。
全体的に大分カジュアルな夏服って感じだが、気温が三十度くらいあるこの国では最適だろう。
冒険者としての動きやすさという面でも間違いない。
「おお! 似合ってる! 可愛いよ!」
「本当ですか?! ありがとうございます!」
少し肌の露出が多いとも思ったが、そこら辺にいる若い女の旅人も似たような格好だ。問題ないだろう。それに華奢で肌が綺麗なアリスにはよく似合う。
本人も気に入ったのか、笑顔がいつもより輝いて見える。
「服は可愛いですが、こういった肌が見える衣装は着たことがないので、少し恥ずかしいですね……でも、とても動きやすいので、これなら冒険者として大丈夫そうです!
それに……レン様の好みの服も分かりましたしね?」
「え!? いや、まあ……はは」
アリスがレンをからかうような目で見つめてくるが苦笑いで誤魔化しておく。アリスに似合うものをと思って選んだつもりだが、レンの好みが反映されている事を否定はできない。
「それにしても、衣装を変えたのに、店を出てからも少し視線を感じますね」
この街に来てからアリスはかなり目立っていた。それはドレスのせいかとも思っていたが、街を見ていて分かった。
アリスの容姿は異世界でも相当レベルが高い。もちろん元の世界に比べ、この世界の人間は顔が整った人が多い。だが、アリスはその中でも上位だろう。
それがこの好奇な視線が止まない理由だ。
ただでさえアリスは追われている身なので、この目立つ状況は早急に変えたい。
「……アリス、ここで少し待っててくれ。すぐ戻る」
「――え? あ、はい。分かりました……」
レンはそう言うと、アリスをその場に残し服屋に戻る。
数分後、店の外で待っていたアリスに店で買ってきた物を渡す。
「これは……?」
「プレゼントだ。まあ、アリスの金だけどな……」
「フード付きのマントですか……?」
「ああ、あまり他人の視線にアリスを晒したくはないからな。これを被ればひとまず大丈夫だろう」
そう言うとアリスは少し考えた後、なぜか顔を赤くし顔を逸らした。
「――私のこの格好を独り占めしたい……ってことですか……?」
「――ん? ごめん、なんか言ったか?」
アリスは少し沈黙した後、何かを呟いたが声が小さく、聞き取れなかった。
「いえ、なんでもありません! マントありがとうございます! 大切に使いますねっ!」
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