第25話 宣戦布告(1)


 少し早めの夕食だったので、後でお腹が空くかもしれない。

 だが、今日は戦闘で疲れている。


 旅の疲れも残っているため、寮に戻って早く寝ることを優先させた方がいいだろう。それに――


(ラッシーにも、なにか食べさせてやらないといけないしな……)


 オロールと話をするのが嫌なワケではないが、どうも周囲から必要以上に注目されているようだ。俺としては落ち着かない。


 だが、その前に明日の待ち合わせ場所と時刻を決めておいた方がいいだろう。

 先程のように、従者の2人が苦労しそうである。


 また、オロールを待たせても悪い。後でラッシーを女子寮へ使いに出し、確認してもいい内容だったが、今日は学園に着いたばかりである。


 学園には不慣ふなれだ。そんなラッシーを1人で行動させるのは、まだめておいた方がいいだろう。


 また、問題はオロールにもある。

 待ち合わせ場所に早く来るのはいい事なのだが――


(彼女の場合、余計なトラブルに巻き込まれそうだからな……)


 その辺も言いふくめて、明日の待ち合わせの場所と時刻をきちんと約束する。

 場所は女子寮の庭園でいいだろう。


 レクリエーションは昼からなので、午前中の内に街を見て回り、昼食をとる――といった内容だ。オロールはそれで納得してくれたようだ。


 恐らく内心では「デートみたいですね♡」とかれているのだろう。

 両手を合わせ、ほほの隣へと移動させる。


(幸せそうだな……)


 少なくとも、これで「待ち合わせの時間より、1時間も2時間も早く来て待っている」などという事はないハズだ。


 オロールの後ろにひかえてた女騎士と侍女のエマ。

 彼女たちが「助かります」といった表情を浮かべる。


 そのお礼――というワケではないのだろうが、エマがオロールに耳打ちをした。

 夕食時なので、来た時よりも周囲には人の姿が増えている。


 そろそろ、席を立った方がいい――といった内容だろう。

 オロールはまだ俺と話しをしたいみたいだったが、彼女も疲れているハズだ。


「明日に差し支えるといけませんからね。自己管理も出来ているとは……」


 流石さすが、美しい方は違う――と俺も援護射撃をする。オロールとしても、そう言われてしまっては、席を立たないワケにはいかないだろう。


 並みの女性に「美しい」などと言っても、お世辞せじでしかないが、彼女は実際に美人である。俺の言葉を事実として受け取ったようだ。


 食器を下げさせ、渋々しぶしぶと席を立つ。俺としても、上位貴族であるオロールより先に席を立つワケにはいかなかった。


 取りえずは「ひとまず安心」と言えるだろう。


(やれやれ……)


 今後も彼女の同行には注意をした方が良さそうだ。

 そう思ったのもつか、今度は階段の付近で、とある人物と再会する。


 蒼色あおいろの瞳と長くあざやかな薔薇色ピンクローズの髪を持つ女性。

 エレノア嬢である。


 平民たちのる下の階がさわがしいと思ったら、原因は彼女たちのようだ。

 街から戻ってきたらしい。


 彼女を筆頭に数名の上位貴族たちが食堂へと足を運んでいた。

 その中にはアルチュ-ル先輩もいる。


 見た所、どうやら魔王十氏族の面々らしい。そんな予感はしていたが――現在、行われているレクリエーションにおいて――彼女たちが本来の主役のようだ。


 見付からないようにコソコソとしたい所だが、良くも悪くも――


(俺の黒髪は目立つんだよなぁ……)


 加えて、今は美少女であるオロールも一緒だ。

 これで見付からないワケがない。


「カリオではないか⁉」


 彼女はおどろいたような声を上げたが「ワザと」そうした可能性が高い。

 無視することも出来ただろう。


 だが、こうした方が「俺が嫌がる」と思ったに違いない。

 実際にその通りである。


 きっと、カレーまみれにした仕返しなのだろう。

 大人びた見た目だが、実年齢はそれ程、離れてはいないようだ。


存外ぞんがい、子供っぽい所があるようだ……)


「これはエレノア嬢! アルチュール殿も!」


 今、戻ってきたのですか? 奇遇きぐうですね!――と心にもない言葉を返す。

 オロールは俺から一歩下がって、カーテシーを行った。


 会話には加わらず、俺を引き立てるつもりらしい。


「オロール嬢も長旅で疲れているようですので、これから寮へ戻る所です」


 そう言って、俺は部屋へ戻るむねを伝えたのだが、


「これはすまない。だが、折角せっかくなので、彼らの紹介だけでもさせてくれ」


 とエレノア嬢は食い下がる。

 まあ、もともとの強い性格なのだろう。


 それに明日からのレクリエーションの相手となると、知っておいて損はない。


「そういう事でしたら……」


 一応、オロールに目配めくばせをするが「構いませんわ」といった表情を返された。俺の思考を読んだワケではなく「カリオくんにお任せします」的な考えなのだろう。


 肝心かんじんなのは誰に勝って、誰に負ければいいのか?――なのだが、


「紹介しよう。彼がカリオくんだ。『明日、お前たちを倒す!』と宣言している」


 とエレノア嬢。「先手を打たれた!」というよりも「なん勝手かってに宣言してるの⁉」というのが俺の心情である。急いで訂正しようにも、


「私に勝ったのだから、負けるワケないよな?」


 と圧を掛けられてしまう。


(これは大人しくしたがった方が良さそうだな……)


 しかし、かといって「はい、そうです」と返すワケにもいかない。


大袈裟おおげさですね。いつでも全力で相手をするだけです……」


 と誤魔化ごまかすのが関の山だ。


(まったく、面倒なことになってしまった……)

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