第24話 証明終了(2)


 パールがクラシックなキッチンワゴンを使い、料理を運んできてくれた。

 俺の前へいくつか料理が並べられる。


 好きな料理だけ並べてくれればいいのだが、フルコースのように順番や構成が決まっているらしい。


 彼の所作に不服があるワケではないのだが、イケメンが行うだけでテーブルサービスも優雅エレガントに見るのだから「ズルイよな」とは思ってしまう。


 予想通り、魔力の回復を優先しているようで、薬草料理が中心のようだ。

 正直、美味おいしくないので勘弁かんべんである。


 いつもなら食い意地いじっているラッシーも――薬草は苦手なのか――大人しくしているようだ。


(ニオイで分かるのかもしれないな……)


 食前酒に口をつけ、一口サイズになった料理を頂く。

 後は好きに食べてもいいだろう。そういった場所でもない。


 薬草料理を肉や魚と一緒に口へと運ぶことで、味を誤魔化ごまかす。

 また時折、オロールと他愛たわいもない会話をする事で気をまぎらわせた。


 流石さすがは貴族令嬢。

 俺とは違ってナイフとフォークを動かす手に、躊躇ためらいがないようだ。


 今にして思えば、実家での食事も野菜は『カレー魔法』で創り出したモノを食べていた。俺の舌が美味おいしい野菜にれてしまっているらしい。


 そのため、薬草料理が余計よけい不味まずく感じるのだろう。

 フォークに刺した料理を見詰めていると、


「やはり、野菜は『スタティム領』で採れたモノの方が美味おいしいですね」


 オロールに言われる。まるで心を読まれたかのような台詞セリフだ。

 だが、暗に「俺の野菜が食べたい」と言っているようにも聞こえる。


(実際にその通りなのだろう……)


 幼少期の彼女が太っていた――という事は、偏食へんしょくがあった可能性が高い。

 他の貴族に見られている手前、今も相当、無理をしているのだろうか?


 気の毒に思ってしまった俺は、


「では、後で手配しましょう」


 などと社交辞令とも取れる返しをする。

 だが、オロールは言葉通りの意味で受け取り、本気にしたようだ。


 ぱぁっと花が咲いたような笑顔になる。背後にひかえていた女騎士と侍女のエマも、俺の言葉にホッとした表情を浮かべている。


 その顔はまるで「良かったですね、お嬢様」と言っているようだ。

 これは後で野菜を届けなければいけないらしい。


「それで、どのような野菜をご所望ですか?」


 と俺は質問をする。明日からのレクリエーションについて――その対策の――打ち合わせをしたかったのだが、以降は野菜談議になってしまった。


 まあ、野菜に関係する彼女の思い出話でもある。

 オロールとはほとんど面識はなかった。


 だが「その間、どういう生活をしていたのか?」その片鱗へんりんが理解できただけでも「よし」としよう。俺の場合は、


「『春野菜カレー』『夏野菜カレー』『秋野菜カレー』『冬野菜カレー』と様々なカレーの開発を行うと同時に、食材である野菜を創り出す特訓をしていました」


 と冗談半分に事実を話した。

 今では『春夏秋冬』に加え、他種多様なカレーを右手から出すことが可能だ。


 正直「ここ、笑うところですよ」といった感じで口にしたつもりだったのだが、


「まあ、素敵です♡」


 とオロール。何故なぜか、うっとりとしている。


(はて? そんな会話の流れだっただろうか……)


 俺は疑問に思いつつも、彼女の思い出話から色々と分かった事を整理してみた。

 まずは幼少期から行っていた『カレー魔法』の特訓。


 基本的には様々なカレーを魔法で創り出していただけだ。

 そんな修行時代の副産物として、俺は「多くの野菜を創った」というワケである。


 『カレー魔法』の修行の結果、様々なカレーに加えて、大抵の野菜なら問題なく創り出すことが可能になった。


 その際、問題となったのが大量に作った野菜だ。

 魔法で創り出したカレーではあるが、流石さすがに日持ちはしない。


 当時はその都度つど、消去していたのだが――


(野菜の場合は、保存が利くからな……)


 当然、1人では食べきれない。

 その分を友人や屋敷の料理長コックへ食材として提供していた。


 野菜に関しては――


(てっきり、屋敷の者が「全部、食べている」と思っていたのだが……)


 違ったようだ。母が気に入った野菜を取り分け、友人のとつぎ先である『テッラム家』へと送っていたらしい。


 トマトやミニトマト、キュウリに枝豆、トウモロコシ、それからナス。

 確かに「友達にあげるから」と言って、色々と頼まれた事もある。


(まさか、オロールの家へ送っていたとは……)


 しかし、問題はそこではないようだ。

 結果、彼女はダイエットに成功したらしい。


 お肌もスベスベ。見ての通り「綺麗になった」とオロールは喜んでいる。

 俺の創り出した野菜に、そこまでの美容効果があった事におどろきだ。


 貴族相手に商売をすればもうかるのでは?――と思わなくもないが、大量に創り出すのには向いていない。


なにより、俺が面倒だしな……)


 また、そこまで考えて「それは要因のひとつに過ぎない」という結論になった。

 オロールが綺麗になったのは「彼女の素養と努力によるモノだ」と考えるのが妥当だろう。


 ラッシーもパールも俺の野菜を食べている。

 加えて、見た目だけなら美形だ。


 そのため、オロールの台詞セリフに思わず、納得していまいそうになった。

 だが、俺は違う。野菜を食べてもイケメンになっていない。


 なので『野菜を食べると美人になる説』は却下きゃっかである。

 証明終了Q.E.D.――


(くっ! なんだ、このむなしさは……)

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