第四章 華麗なる食堂

第21話 食堂にて(1)


 食事は寮ではなく、学園の食堂でとるのが定番のようだ。

 ただ、談話室を借りて会食用の部屋にしたり、庭園に友達と集まったり、自室で食事をとるなど、生徒によって、その食事風景は区々まちまちである。


 中には学園の研究室にこもって、出てこない生徒もいるらしい。

 俺たちは貴族寮を出ると、庭園を通って学園本館へと向かう。


 いや、学園というよりも――


(まるで、お城だな……)


 街から見えていた建物は、やはり魔王学園で間違いないらしい。

 史実によると「初代魔王が住んでいた」とされる城でもある。


 かつてはバラバラだった魔人族――それらをたばね、統治することで、ひとつの国家を創った。それが魔王国だ。


 同時に人間族との戦争のため、国の中央へと遷都せんとする事になる。

 だが、現在においてもなお、魔王学園は絶対王政最盛期の権威と力の象徴だ。


 話に聞く限り「さぞかし立派なのだろう」そう思っていたのだが、俺の想像とは少し違うらしい。


 勝手に絢爛けんらん豪華ごうかなイメージを持っていたが、実物は質実しつじつ剛健ごうけんといった印象である。

 無駄が排除された外見に関わらず、みょうな威圧感がある。


 当時の経済状況や文化レベルにもよるが――


(実用性を重視しているのだろうな……)


 まあ、物は考えようだ。これなら、生徒たちの魔法による攻撃にも耐えられるだろうし、もし壊れても修復は容易である。


 一方で庭園は人工的に整形された草木が植えられ、幾何学きかがく的な池の配置が特徴的だった。芸術性が高く、それらは左右対称になるよう配置されている。


 『平面へいめん幾何学式きかがくしき庭園』のようだ。

 しかし、魔力の流れも考慮され、魔術を意識した造りになっている。


 庭園自体が魔法陣として機能していた。

 『多元たげん魔術式まじゅつしき庭園』と訂正すべきだろうか?


(『カレー魔法』に応用が利きそうだな……)


 この学園で学べば、俺の『カレー魔法』も数段階進化できそうだ。魔法はイメージに頼る部分も大きいが、使用するたびにイメージを構築していたのでは非効率である。


 術式を組み、より効率的に使用する――それが魔術だ。ゆえに洗練された魔術は「より複雑で、より美しく、芸術のいきへ達している」と言われる。


 俺の『カレー魔法』で例えるのであれば、術式を組めば「いつでも同じ味、同じ量、同じ温かさのカレーが創れる」というワケだ。


 術式を組むことで「タマネギは飴色あめいろになるまで、じっくりといためる」「複数のルウを使うことで味に深みを出す」「隠し味を入れることでコクが増す」「長時間煮込むことで濃厚な味に変化させる」「肉は圧力鍋で柔らかくなるまで、別に調理してから鍋に入れる」など、創ることが出来るカレーの幅が広がる。


(つまりは『こだわり』かな……)


 魔術が男性向き――と言われる所以ゆえんだ。

 一方で魔法は感情にも影響されるため、女性向きとされている。


 カレーで例えるなら「手軽に作れる」「作り置きができる」「子供が喜ぶ」といった所だろう。毎日、献立こんだてを考えるのも大変なのだ。


(当たり前と思わず、感謝して食べた方がいい……)


 俺がそんな事を考えていると、いつの間にか学園へと辿たどり着いていた。

 重厚じゅうこうな雰囲気が漂う中、奥は薄暗く、広くて大きい――明らかに初見では迷いそうだ。


 だが、生徒の流れは決まっているらしい。

 俺は魔力の痕跡こんせき辿たどることにした。


 ほとんどの生徒は毎日、食堂へと足を運んでいるハズだ。

 魔力の流れが多い方へと向かう。


 すると予想通り、食堂へ無事に到着することが出来た。


(まあ、ラッシーに料理のにおいを探させる手もあったが……)


 絵面的に人前では問題ありそうだ。

 俺たちは解放されたままになっている両開きの大きな扉をくぐる。


 しかし、食堂へ入った時間が早かったらしい。

 学生の姿はまばらだった。


 いや、初日なので、これ位の方が緊張きんちょうせずに済む。


(どうせ、もう少しすると混むハズだ……)


 しろなテーブルクロスが掛けられた長方形の食卓テーブル

 それが一直線に複数列ならんでいる。


 いったいいくつなげてあるか、数えるのも面倒な程だ。

 同時に「それだけ多くの学生が通っている」という事を意味する。


 最初は「そこで食事をとればいいのか」と思ったのだが、違和感いわかんを覚えた。

 どうやら、着席している生徒の制服が俺たちと違うようだ。


 気が付くのに時間が掛かったとはいえ、それはわずかな時間だ。

 しかし、そんな俺の戸惑とまどいをすぐにさっしたようでパールが、


「あちらではないでしょうか?」


 そう言って、手の平を上に向ける。

 俺がその先へと視線を向けると、おうぎ形型に広がる階段が目に映った。


 どうやら、ここでも貴族と平民は分けられているようだ。

 貴族は階段を上がって、上の階で食事をするらしい。


 別に平民を見下すワケではなく――天幕カーテンで仕切られているため――「互いに干渉しない」というのが、この学園においての暗黙の規則ルールなのだろう。


「よし、行くぞ」


 再び、俺は歩き出す。正直なところ、貴族を相手にする方が緊張する。

 平民の制服を着て、彼らにまぎれて食事を済ませたい所だ。


 そして、さっさと部屋へ戻ろう。だが――


(約束もあるから、そうもいかないか……)


 時間は指定していないが、オロールとは顔を合わせる約束をしていた。

 明日からの方針について決めるためだ。


 まあ、それも「偶然ぐうぜん、会う事が出来れば」の話である。

 ただ彼女の事だから――


(俺が来るまで、食堂で待っていそうだな……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る