第16話 カレー魔法の正しい使い方(2)


「まったく、こんなに美味おいしいカレーなのに……」


 とはパール。いつの間にか俺の近くに立っている。

 流石さすがに護衛の指示は守っているのか、オロールも一緒のようだ。


 しかし、その手には『焼きチーズカレー』を持っていた。

 ちゃっかり食べているらしい。


「食べないなんて、勿体もったいないのです! わん♡」


 モグモグ――とラッシー。こちらは口いっぱいにカレーを頬張ほおばっている。

 食べるかしゃべるか、どっちかにして欲しい。


 『焼きチーズカレー』を気に入ったのか、ご満悦まんえつの様子だ。

 そこ、食べ過ぎないように!――と注意をしておく。


(やれやれ、困ったモノである……)


 今回はハンバーグを乗せているため、カレーには酸味のあるトマトを使ってみた。

 また、トマトと相性のいいズッキーニも一緒だ。


 食感の邪魔じゃまにもならないし、パスタやトマト煮込みなどには、お馴染なじみの野菜である。


 高血圧やむくみ対策になる『カリウム』をふくみ、美肌や疲労回復にも役立つ。

 更にカレーの上には『4種類のチーズ』をたっぷりと乗せている。


 火加減によっては出来上がりの際、味のさが異なるため、調整がむずかしい。


(だが、今回は上手うまくいったようだな……)


 焼けたチーズの香ばしさは勿論もちろん、スプーンでくずせば――ジュワッとした――透明な油が広がる。


 とろっとしている箇所かしょは、カレーと混ざり合う事で、美味おいしさは倍増だ。

 いて言うのであれば、パセリを振り掛けるのを忘れてしまった。


(俺もまだまだ、だな……)


 反省する俺に対して「それで」とオロール。


「いつまで『くっついている』つもりなのですか?」


 とげる。俺がエレノア嬢を支えている件に対してだろうか?

 なにやら怒っているっぽい。


 エレノア嬢にではなく、俺に対してのようだ。

 背中に寒気を感じたのは、気の所為せいではないだろう。


「魔力いを起こしたみたいだ……」


 カレーを食べさせてやってくれ――俺はラッシーに視線を送る。すると、


「分かったです♪ わん!」


 そう言って、ラッシーはハンバーグをフーフーした。

 そして、エレノア嬢の口へと突っ込む。


 パールといい、ウチの従者はどうして、こうざつなのだろうか?

 んぐっ!――とエレノア嬢。ラッシーの外見だけなら可愛い犬耳少女だ。


 油断していたらしく「回避は難しかった」と見える。

 き出すワケにもいかない――と判断したのか、モグモグと租借そしゃくした。


「ハンバーグとチーズのコンビネーションが絶妙なのです! わん♪」


 とラッシー。何故なぜか、その場でクルリと周り、あざとく尻尾を振った後、


「更に、ここでカレーです! わん♪」


 先程と同様に、エレノア嬢の口へとカレーを投入する。


「肉とチーズの旨味うまみが増幅なのです! わん♪」


 ラッシーはそう告げた後、クリクリとした瞳でエレノア嬢を見詰みつめた。

 なかなかに否定しにくい状況である。


 最初は怪訝けげんな顔をしていたエレノア嬢だが、


「ホントだ……」


 美味うまい――と口許くちもとを手で隠しながらつぶやく。

 一方で、取り巻きたちも起き上がり始めた。


 立ち込める『焼きチーズカレー』のにおいに食欲を刺激されたらしい。

 グゥ~!――と誰かの腹の音が鳴る。


「魔力は回復しましたか?」


 俺の問いに「ああ」とエレノア嬢。初めて感じる不思議な感覚なのだろう。

 カレーには人を元気にする力があるのだ。その一方で、


「立てるようになったみたいですね……」


 では、早く離れてください♡――とオロール。

 穏やかな表情だが、俺の感じている寒気は一向に消える気配がない。


「エレノア様っ!」


 と数名の取り巻きたちが近づいてきたので、俺は彼女たちにエレノア嬢を任せることにした。俺がエレノア嬢から離れると「フゥー」とオロールは安堵あんどの息をく。


 どうやら、心配させてしまったらしい。


「ご無事ですか?」


 とオロール。何故なぜか両手で俺の手を取り、目を見詰めてくる。

 女性として意識してしまうので――


(そういうのは、めて欲しいのだが……)


「俺の方は大丈夫だ……」


 魔法でカレーを創っただけだしな――と報告する。だが、


「普通は魔法でカレーを創ったりしません!」


 とオロールに返されてしまった。何故なぜかエレノア嬢と、その取り巻きたちが彼女の言葉に「うん、うん」と同意する。


なんだろう、この疎外感そがいかんは……)


 いや、それよりも、


「オロールの方も大丈夫みたいだな……」


 パールとラッシーを守ってくれてありがとう――と俺は礼を言う。

 すると、ぱぁっと花が咲いたような笑顔になるオロール。


「それは『私がカリオくんのお役に立てた』という事でしょうか?」


 いきなり顔を近づけ、やや興奮こうふん気味ぎみに俺へと質問する。

 そのいきおいに押され「ああ」と曖昧あいまいな返答になってしまう。


 しかし、オロールには気にした様子がなく、それどころか、


「つまり『私が必要!』『これからも一緒にいたい!』『そばて欲しい!』という事ですね♡」


 と言葉を続ける。なか強引ごういんに言わされている感はあるのだが、


「オロールがてくれて助かってるよ」


 俺は肩をすくめ、そんな台詞セリフを返した。

 するとオロールは俺から離れ、大地神へといのりをささげる。


 何故なぜか――ポンッと――エレノア嬢に肩をたたかれた。そして、


「苦労するな」


 とつぶやかれる。「うん、うん」パールとラッシーが彼女の意見に同意した。

 先程からなんなのだろうか?


(この俺だけ分かっていない感じは……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る