第17話 大地魔法VSカレー魔法(1)


「おっと、そうだった」


 時間を計測するための砂時計は地面に転がっていたので、気が付かなかった。

 恐らく、提示ていじされた時間はすでに経過しているハズだ。


 時計を持っていた人物はパールにより取り押さえられ、ラッシーの手によって『焼きチーズカレー』を食べさせられている。


(よし、見なかった事にしよう……)


 俺がカードを確認すると、そこには刻印こくいんえがかれていた。

 やはり、スタンプラリーと同じく、刻印が増えるらしい。


 刻印自体は魔力によって生成されたようで、青く光って見える。

 残る空欄は九つある。だが「すべてをめるべきか」は後で考えよう。


 学園での序列に影響する――


(そんな事を言っていたな……)


 だが、最初から目立ってしまっては他の生徒から標的にされかねない。ひとまず、エレノア嬢へ「オロール嬢も魔方陣を使って構わないでしょうか?」と確認する。


 エレノア嬢は最初、キョトンとしていたが、


「勝者である、お前の自由にして構わない」


 という返答だったので、遠慮なく使わせてもらう事にした。オロールが数分間、魔方陣の中にとどまる事で――俺と同様に――カードへ刻印が描かれる。


「これでいいのかしら?」


 とオロール。カードを見せてもらうと、俺の時とは刻印の色が違うようだった。

 恐らく、持ち主の魔力が関係するのだろう。


 つまりは「本人がきちんと魔方陣を使用した」その事が分かる仕組みになっているらしい。


 貴族の中には当然、代理の者に――レクリエーションとしょうした――決闘を行わせる者もいるハズだ。


 そういった不正を見破みやぶるのが目的かもしれない。

 その事から、俺がカードをあずかり、オロールの分の刻印を集める――


(という作戦もむずかしそうだな……)


 気付かずに学園へ提出していれば、俺と彼女の評価は下がっただろう。ただ、エレノア嬢の様子から「チームを組んでいどむ」というのは認められているようだ。


 血統魔法には相性がある。

 すべての刻印を集めるには、新入生同士で協力することが必要らしい。


(一度、学園で仲間集めをするのも手か……)


 俺があごに手を当て、そんな事を考えていると、


「これから、どうします?」


 とオロール。もしかするとエレノア嬢の相手は、俺よりも彼女のような防御魔法を得意とするタイプの方が向いていたのかもしれない。


(今となっては、それを確認するすべはないか……)


 それに彼女の身の安全を確保する方が、俺にとっての優先事項である。

 学園での生活を考えると、交友関係は広い方がいい。


 無理をして陽キャを気取きどるよりも、人気者のそばる方が友達作りは簡単である。

 すでに前世で学習済みだ。


勿論もちろん、取れる所から確実に取っていく……」


 最初の予定通り、大通りの近くにあるポイントへ向かう――と俺は告げた。

 相手は土魔法の使い手のようだが『カレー魔法』なら対処できるだろう。


「はい、分かりました♡」


 何処どこまでも、お供します――とオロール。

 いちいち台詞セリフ大袈裟おおげさな気がするのだが――


(いや、今は気にしない事にしよう……)


 次のポイントへ向かう前に、俺とオロールはエレノア嬢に挨拶あいさつをする。

 互いに健闘をたたえた後、


「どうやって勝つつもりなのか、知りたい所ではあるが……」


 私も、この場から離れるワケにはいかないからな――とエレノア嬢。

 残念そうである。そんな彼女に対し、


「でしたら、後でわたくしがお話しいたしますわ♡」


 とオロール。「それは楽しみだ。是非ぜひに」とエレノア嬢は返す。

 2人で盛り上がっている所、悪いのだが――


(これで俺が負けた場合、気不味きまずくないか?)


 しかし、弱気な態度を取ってしまっては、オロールの護衛として相応しくはない。

 また「エレノア嬢に勝った」という立場上「他の者に負ける」というような発言は彼女を侮辱ぶじょくする事になる。


 つまり、俺は「勝つ」と宣言しなくてはいけないワケだ。


「ワフフフフ! ご主人なら余裕なのです♪ わん!」

「フハハハハ! カリオ様のカレーの前に敵は存在しません」


 とはラッシーとパール。エレノア嬢の取り巻きたちへ(強引ごういんに)『焼きチーズカレー』を振る舞っていたようだが、もう気は済んだらしい。


 どうして、コイツらはこうなのだろうか?


あと、恥ずかしいからめてくれ……)


 俺は「この場にとどまる事は得策ではない」と判断し、さっさと移動する事にした。

 エレノア嬢へわかれの挨拶あいさつをして、オロールの手を取ると来た道を戻る。


 一度、大通りまで出ると、


「魔力の方は大丈夫ですか?」


 心配そうな表情でオロールが聞いてくる。確かに、アレだけの数の『焼きチーズカレー』を創ったので――本来ならば――かなりの魔力を消費するハズだったのだが、


「炎をカレーに変えただけだから、まだ余裕はある」


 俺は素直に答えた。エレノア嬢の魔力を変換したので、見た目ほど消費は激しくない。なお〈カレープロテクション〉だが、カレー魔法においては初級の魔法である。


 普通のカレーであれば、消費しても、すぐに魔力は回復した。

 目下のところ、問題があるとすれば、


流石さすがはカリオくんです♡」


 とみょうに好意的なオロールのあつかいについてだろう。

 同じ学生という立場ではあるが、彼女の家柄の方が上だ。


 後々のちのち、問題にならないといいのだが――


(いや、すでに手遅れな気がする……)

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