第6話 幼馴染みとの再会(2)


(いったい馬車には、どんな美男美女が乗っているのやら……)


 そんな事をなんとなく考えていたのだが――姿を見せた彼女の容姿は――俺の想像の遥か上を行っていた。


 息をむほどの美しさとは、こういう事をいうのだろう。

 雪のように白い肌を持つ、金髪碧眼の少女。


 学園の制服に身を包んでいる事から、生徒であることに間違いはない。


「カリオくんですか♡」


 俺の名を呼ぶと同時に、大きな瞳を更に見開く。

 少女の様子はみょうはしゃいでいるように見えた。


 そんな彼女に対して、一緒に乗っていた侍女は、


「オロール様、まだ外に出てはなりません!」


 主人である少女の腕をつかむと引き留めた。だが「大丈夫です!」オロールと呼ばれた人物は微笑ほほえみ、腕をつかんでいた侍女を一瞥いちべつする。


 少女からは、かなり上質の魔力を感じる。魔人族の特徴として、自分よりも強い魔力を持つ存在には従順になる傾向けいこうがあった。


 魔力至上主義とでも言うのだろうか?

 通常、自分より格上の存在には恐怖を感じてしまうモノだ。


 しかし、今回は「怖い」というのが理由ではないのだろう。

 どちらかと言えば「可愛い」ので目が合うと、つい気がゆるんでしまった。


 そんな所のようだ。オロールは「隙あり!」とばかりに侍女の腕を簡単に振り解いてしまう。そして、俺へと笑顔を向ける。


 どうにも、向こうは俺のことを知っているらしい。いや、名前だけなら心当たりはあるのだが、記憶にある知人と目の前の少女の姿が一致いっちしない。


 若干じゃっかん、思考がフリーズしてしまう。いつもなら、そんな俺の状況を把握はあくし、護衛を兼ねているラッシーが盾となって、俺の前に立つのだが――


(相手はどう見ても上位貴族だよな……)


 こちらも地方貴族なので「ひとつの国を治めている」と言っても差し支えはない。

 だが、経済規模としては「中の下」といった所である。


 対応を間違えると、後々面倒なことになりそうだ。

 しかし、相手には敵意がない。


 それどころか俺に対し、随分ずいぶんと好意的に感じる。野生の勘が働き、考えるよりも先に身体からだが動くラッシーにしては、珍しく反応に困っていた。


(まあ、敵対する意思はなさそうだしな……)


 俺はラッシーの前に手を伸ばし、彼女の動きを制する。

 同時に自分の記憶を辿たどった。


 知り合いの貴族は多くはないハズだ。

 俺の記憶が正しいのならテッラム家のオロール嬢で間違いないだろう。


 魔人族の中でも我がスタティム家は畏怖いふの対象となっている。

 その理由は、血統魔法が死の系統を有しているからだ。


 例えば、我が兄『ルーカス』の血統魔法は自分に対し、殺意を向けた相手を自動で即死させる『突然死サドンデス』の能力を持つ。


 俺の知る中では、ほぼ最強の部類の血統魔法だろう。


(それゆえに孤独でもあるのだが……)


 なにしろ、兄の存在を知ること自体がリスクだ。少なくとも――死の魔法に対して――抵抗できるは、兄と同等かそれ以上に強い魔力を持っていることが条件となる。


 魔力の低い魔人族では、彼のそばに寄るのも危険だろう。次期領主という点をかんがみれば「領民に反乱を起こされる心配はない」というのは利点メリットだ。


 だが、それ以上に欠点デメリットが大きい。

 人前に出る事ができないのは、領主として大問題である。


 ちなみに父は視界に入れた者を任意で即死させる『死の魔眼』の持ち主だ。

 そのため、左目はいつも眼帯で隠している。


 母は父と従妹いとこらしく、同じく死の血統魔法を所有していた。

 死者を操ることが出来るので、こちらは便利に使用している。


 母の操る『生ける屍』リビングデッドが今も兄の世話をしていた。

 これなら「兄に殺される心配はない」というワケだ。


 また、妹は霊を使役できるので――


はたから見たら、完全にお化け屋敷だな……)


 そんなスタティム家と「懇意こんいにお付き合いをしよう」という魔人族は魔力の高い貴族の間でも「限られている」というワケだ。


 テッラム家は、そのめずしい貴族の一つである。

 たしか、大地の系統の血統魔法の家系だったと記憶しているが――


(彼女の場合、ちょっと特殊なんだよな……)


 幼少期に兄の許嫁候補として、スタティム家に滞在していたのがオロール嬢だ。

 その際は男装していたため、男性だと思い込まされていた。


 実は女性だったことも、兄の許嫁候補だったことも、知ったのは数年ってからになる。結局、兄の魔法が危険すぎたため、許嫁の話は無しになった。


 兄としても、結婚する気は無いのかもしれない。人間族との戦時中であれば『英雄』になれた能力だが、平時には危険すぎる能力だ。


 なにせ、兄のことを「気に入らない」と思うだけで、こちらが心臓発作になってしまうのでは、仕事の愚痴ぐちも言えやしない。


(部下からすると最悪の上司だな……)


 しばらくは、俺が補佐をするしかないようだ。

 妹は妹で、友達を作る様子はない。


 人形に霊を取りかせて遊んでいる。

 世が世ならニート予備軍だ。


 改めて「この家は俺がしっかりしないといけない」そう考えてしまう。

 だが――今、気にしなくてはならないのは、目の前にいる彼女の存在だ。


 魔人族の中でも、見た目の美しさで有名な家系ではあったが――


(こんな美少女だっただろうか?)

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