第5話 幼馴染みとの再会(1)


 ラッシーたちと合流してから、俺は馬車へと近づく。

 壊れてはいないようなので、まずは一安心する。


 この分なら「中に乗っている」と思われる生徒は無事のようだ。

 一方で御者ぎょしゃの方は魔獣使いテイマーだろうか?


 ドラゴンから逃げる際に、魔力を使い果たしたらしい。


(使役する魔獣の強化に魔力のほとんどをそそぎ込んだのか……)


 ぐったりとしている。最初は「これも学園が用意した試金石しきんせきか?」そんな事をうたがっていたが、この様子では違うようだ。


 仕方なく、俺はカレー魔法によってジャガイモを作り出し、パールと視線を合わせる。そして、指の代わりにあごをクイッと動かした。


 食わせてやれ――という意味だ。

 パールは片膝かたひざを突き、両手でジャガイモを受け取ると御者へと近づく。


 流れるような動作で御者台へ素早く飛び乗ると、右手で御者のあごつかんだ。

 一瞬にして、エサを欲しがる池のこいのような顔になる。


 御者は若い女性のようだ。女騎士といった所だろう。


(相変わらず、パールは容赦ようしゃがないな……)


 そのまま強引に上を向かせ、パールはいているもう片方の手でジャガイモを女性の顔に近づける。ねらいを定めると、そのジャガイモをにぎつぶした。


 タコみたくなった女性の口へ、ジャガイモの汁を流し込んだうえで、今度は粉々になったジャガイモを口の中へと押し込む。


 当然、御者はあばれ、抵抗するのだが、パールの方が膂力りょりょくは上らしい。

 文字通り、ムダな抵抗となる。


 治療ちりょう行為こういのハズが――


拷問ごうもんみたくなってしまった……)


 かしたイモも用意できるが、この場合、のどを詰まらせていただろう。

 生のジャガイモで正解だったようだ。


 生食用に適した、ねっとり系の品種を選んだので、味の心配はない。

 本来ならサラダやえ物にすることで、シャキシャキとした食感を楽しむことのできる食材である。


 歯触はざわりもよく、味にクセがないので、どんな味付けの料理にも合うだろう。

 俺が魔法で出したジャガイモなので当然、鮮度は抜群ばつぐんだ。


 皮や芽にふくまれる毒素を心配する必要もない。


(ただ、欠点もある……)


 生のジャガイモに含まれるデンプンは「消化されにくい」という性質を持っていた。

 そのため、たくさん食べると、お腹を壊してしまうのだ。


 ケホケホッ――と女騎士。涙目でながら、パールをにらみ付けるも、自分の魔力ならびに体力が回復している事に気が付いたようだ。


 自分の両手の平を見詰め、力がみなぎっている事におどろいている。


(だいたい、みんな同じような反応をするな……)


 ジャガイモには消化不良を解消する効果がある。

 また、胃病や心臓病患者にとっては良薬らしい。


 栄養価も豊富で、アンチエイジング効果のある食材の一つだ。

 高品質の健康食品とも言える。


 毎週5、6個摂取することで、脳卒中の確率を下げることが出来るそうだ。

 一応、民間療法では「打ち身」や「火傷やけど」にも効くらしいが――


(ネギと一緒で、この情報は、ちょっと当てにならないな……)


 薬が簡単に手に入らなかった時代の活用方法だろう。

 今回は生食のため関係ないが、調理法によっては高血圧のリスクがある。


 えて言う必要もないかもしれないが、フライドポテトやポテトチップスの食べ過ぎには注意が必要だ。


 俺は「魔獣の方にも食べさせてやれ」という意味で、パールにジャガイモを放る。

 パールは簡単にキャッチすると、御者台から飛び下りた。


(さて、問題は誰が乗っているかだな……)


 俺は馬車の方へと視線を戻す。

 白亜の馬車という事は、それなりに身分の高い者が乗っているのだろう。


 こんなモノにずかしげもなく乗れるのは「王子様」や「お姫様」といった人種である。


「俺はカリオ――カリオ・ヴァニタス・スタティムだ」


 主人に挨拶あいさつをしてもいいか?――と女騎士へたずねる。

 馬車の中にいる人物にも聞こえるようにワザと大きめの声を出す。


 俺同様に、馬車の中の人物も警戒しているのだろう。

 迂闊うかつには外へ出て来ないようだ。


 だが、こんな時、俺の黒髪黒瞳は役に立つ。

 前世の名残なごりかもしれないが、初代魔王と同じ特徴である。


 もしかすると――


(初代魔王も異世界からの転生者だったのかもしれないな……)


 身に付けていたフードとマフラーを外し、顔をあらわにした。

 俺からすると赤毛やら水色の髪の方が奇抜な印象なのだが、この世界では黒髪の方が目立つようだ。


 案の定、女騎士は――ビクンッ!――と身を強張こわばらせる。

 俺を高貴なる血統の者だと思ったのだろう。


 実際、その通りなのだが、血統魔法の使えない俺は落ちこぼれだ。

 しかし、血統魔法が死に関する系統のため「見せてみろ」と言われる事はない。


 黙っておけば、まずバレることは無いだろう。

 家名である『スタティム』も、それなりに――悪い意味で――有名だ。


 元々は違う家名を名乗っていたらしいが――


(不吉なため『スタティム』へ変えたらしい……)


 女騎士がすぐに反応して「馬車の中の主人へと伝える」そう思っていたのだが、それよりも早く――バンッ!――馬車の扉が勢いよく開く。


 出てきたのは女神や天使と見紛みまがうほどの美少女だった。

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